間合ひ 積 緋露雪
日本刀一振りの長さが間合ひとして厳然と残るこの国で、
それをなし崩しにする行為、
例へば、根拠のない全的な共感などは
御法度なのだ。
――解る、解る、それ私も同じ!
かういふ言説こそが最も忌み嫌はれるもので、
それを一度受け容れる関係性が成り立つならば、
その関係は緩い繋がりでしかなく、
――深入りしないでね。
といふSignでしかない。
ただし、この間合ひには例外があり、
それは茶室の中である。
武士が活躍していた時代には
茶室に入るには刀を置いて入らなければならないのだ。
茶室の中では身体そのものが間合ひとなり、
例へば正座し、両手を添えて挨拶をするとき
その手の置かれたところが厳然とした間合ひであり、
そこで人は頭を垂れて何ものかを述べるのであるが、
その一期一会での挨拶で全てを受け容れなければならぬ。
それが出来なければ、
茶室内の秩序はChaosになり、
最早収拾が付かぬ。
だから、茶室は厳粛なのであり、
一期一会の出会ひに間合ひを厳格に守ることで、
お茶会が成立する。
日常で日本刀一振りの長さの間合ひを意識出来ぬものは、
人間関係に悩まされ、懊悩し、
そして、翻っては他者に全的に依存する甘えにしかゐないのである。