意味の海 妻咲邦香
選んだのは言葉
一番使えない道具
一番頼りない武器
それでも私は選んだ
一番遠くまで行けそうな気がしたから
一面は意味の海
泳いでいると、水はどこまでも透明だ
遠回りでいいと教えてくれている
私は魚ではない、ただの人間
息継ぎをしなければ、たちまち溺れてしまう
なぜこの言葉を選ぶのか
それは私にもわからない
少ないものでも満たされることがあると知った
見えない景色がこちらを向いて
連れて行って欲しそうに笑いかけている
さっきまで拗ねていた子供が
突然いい子になってお菓子をねだるように
私の手を引いて
見えないものを見せたがる
見えないものは何処にもなくて
いきなり始まるかくれんぼ
私は鬼になるしかない
なぜこの人を選ぶのか
それは私にもわからない
きっと誰にもわからない
もしもわかってしまったら
言葉はかなしいものになる
とってもかなしい意味となる
だから私は選んだ
誰よりも遠くまで
連れて行ってくれそうな気がしたから