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スレッドNo.2499

懐かしき柴又  小林大鬼

はとバスツアーの終点の
柴又に近づくに連れて
父はぽつりぽつりと語り始めた

四十年前に研修旅行で
仲間と来たのが柴又だったと

小さな稲荷もある駐車場の脇の
老舗の鰻屋で食べたことがあると

黄色いバスを降りて
料亭みたいな中庭のある
懐かしき鰻屋を素通りして

寅さんが愛した
江戸の下町風情が残る
真っ直ぐな参道をそぞろ歩き

古めかしい箱庭の盆栽のような
柴又帝釈天にお参りして

寅さんの実家の
ロケ地を探しながら
草だんこを頬張り

最後に思い出の鰻屋に集まり
小さな鰻重を皆で味わう
二百五十年も続く伝統の味

二階から見えるのは
昔ながらの粋な横丁の町並み

男はつらいよ
恥ずかしながら
父も私も見ていない

蒸し暑い夏の日差しに蝉の声
鳴り響く下駄と風鈴の音が
父の記憶に木霊する

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