百日紅 上田一眞
朝早くゴミ出しに行くと
一頭の黄色い揚羽蝶が道を遮る
花のない
百日紅の木の周りを
無心に飛び回る揚羽蝶
ひらひらと飛ぶ様に
こころの淡い影を見る
百日紅の木から大合唱
見上げると
ジージー ワシャワシャ
ジージー ワシャワシャ
蝉時雨
にいにい蝉にあぶら蝉
チッチッ チッチッ
と鳴いて木肌を少しづつ移動する
あっ 落ちた
地中七年地上七日の生命の灯し火が
いままさに燃え尽きた
百日紅のすべすべの木肌には
無数の蟻ん子の列
蝉の死骸でも運びたいのか
七年と七日待ったのか
黒くて細い列がぞろぞろと続いている
蝶は舞い
蝉の声騒がしく
蟻は列をつくる
いよいよ夏本番
命燃え尽きるこの季節
記憶の彼方に夏休みがある…