感想と評 7/28~7/31 ご投稿分 三浦志郎 8/5
1 大杉 司さん 「蝉」 7/28
蝉、鳴き始めましたねえ。やはり蝉は夏詩の超定番であります。アクセサリーとしての登場率も極めて高い。初連ですが、ミンミンゼミとアブラゼミは鳴き声ははっきり区別できる気がしますが、何か事情がありそうですね。この詩に書かれていることが生態学的にあったか、なかったか、を考えることもできますが、それはこの詩を味わうのに邪魔になるでしょう。―たぶんあったのでしょう。
この詩が面白いのは、詩が丸ごと”擬人法”的になっている点でしょう。人間社会に”翻訳”して読んでも充分読めるし象徴的です。そんな翻訳を通じて、又、蝉の世界に戻って来ると、なんだか、この蝉たちが、かわゆくもある。そんな詩ですね。やや散文的。詩性を含める余地は充分ありそうです。佳作一歩前で
アフターアワーズ。
あるアニメを欧州に輸出する時、作品に蝉の鳴き声が入っていたそうです。ところが欧州では蝉の鳴き声は殆ど馴染みが無いことを知り消して出した、そんなエピソードを聞いた事があります。
2 上田一眞さん 「ねがい」 7/29
「じょうでんかずま」さんの名前の風韻に通じる古格な味わいです。
文語の採用も程がいいです。むしろ情緒を付加するに一役買っていますね。「妻 ひとつ」「夫ふたつ」や「温かき(妻)」「強き(夫)」―この対位的アプローチはたぶん意図されたと思います。
いいと思います。詩は幻想的であり寓話的でもあるんですが、不思議と情景がありあり浮かぶ心地がします。詩行も節度とリズム(この詩の場合、韻律と言うべきか)があります。書き方も、二人の生き方も、こうありたいものです。佳作を。
3 凰木 さなさん 「穏やかな朝」 7/29
「壁にぶつかる~右にも左にも~」―自己の屈託を表現するに、このユニークな表現、いや、気に入った、心にヒットしました。こうした心情世界にも朝はやって来るわけです。「絶え間なく」から「なのでしょうか」までの詩空間、いいですね。穏やかながらも底力ある朝の恵みを充分感じさせます。評者のイメージで言うと、明け方ごろ、暗さを少しづつ覆して育ってくる明るさのような、そんなエネルギーが読み取れます。最後にちょっとアドバイスを。「そう思えてきます」は締めるには、ちょっと散文的か?前連で語っているわけですから「そう思えてきます」は言わずもがな、という感じです。
短い詩に合わせるように「〇〇〇な朝」など、名詞止めでもいいかもしれない。その際「穏やかな」はタイトルで使用済みなので、別の言葉を用意したいところ。今回から評価です。さしあたり二歩前からで。
4 エイジさん 「旅」 7/29
詩行タッチもモチーフも趣きを変えて来てます。これは意識された事と思います。
散文的あるいは掌編小説的です。私事ですが。ちょうどミウラも旅の詩を書く都合があって書いていました。詩上、ご一緒しましょう。
3つのパートに分かれそうですね。
① ……車窓の風景・事物。 ②……下車してたこ焼き。 ③……神社境内にて。
① は「追いかける」感覚、「風の形」「スネアドラム」が目玉でしょうか。(そっか、列車の音がスネアドラムか―あるかもなあ―)
② は、たこ焼きが、ひょうきんで素朴でいい味出してます。「たこ焼きが欲しいのですが」「六つで百円になります」―この生真面目なやりとりに隠されたユーモアや風情は、えも言えぬものがありますねえ。
③ は前半の動の風景に対して静の風景。その際立ちの中にあるようです。神社とたこ焼きの取り合わせもおもしろいですが、基調となるのはあくまで此処の佇まいと濃く流れる時間のことでしょう。
少し冒頭主旨に戻りますと、今回は技法や修辞的なことが影を潜め余計な修飾を避け、ありのままを展開して「プレーン」といった言葉が浮かびます。これはエイジさんの心情的なところから来たものだと把握しています。増えてきたコレクションの中で、こういった傾向もアリだと思います。少し様子を見たいです。評価は保留させてください。
5 久遠恭子さん 「七夕の悲しみ」 7/29 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。そうですねえ、七夕は梅雨真っ最中なので、今ひとつメジャーになれないのも、この辺にありそうな気がしてます。雨のせいで初連のようなこともあるでしょう。詩はこの事情を基調として展開します。ところで、織姫と彦星は伝説上ではありますが、年一回は会っています。ところが、変な言い方になって申し訳ありませんが、この詩は会えない運命上で成立している。逆説的ではありますが、そこがかえってこの詩のユニークなところかもしれない。それは多分に雨という人間界の事情に拠ってはいるのですが。―というわけで、詩上、悲嘆が続きます。終連はそんな二人に同情したのでしょうか、願いで締め括られます。終句のみはちょっと“ベタ”な気がしますね。少し詩的な願いのありようを考えてみてください。 また書いてみてください。
6 晶子さん 「引きこもり」 7/30
まずゴーレムの基礎知識を得るよう努めました。そして、この詩を読んだ場合、ゴーレムと引きこもりといった繋がりにある奇妙さを感じました。そういった意味でこれは不思議な詩であります。わずかに奇怪とも言えるかもしれない。ゴーレムは直接は出て来ないけれど、発話主体の「僕」は注目していいかもしれない。そこで用意される仮説は「僕」がゴーレムという泥人形を自ら造ったということ。けれども造っておきながら、下記ゴーレムの属性に手を焼いているような気がします。詩はそんな伝わり方をするようです。
ゴーレムの属性……頑迷・閉鎖性(このあたり、タイトルに繋がるか?)・暴力性・主人への盲従性(主人はそれがかえって、うとましい?)
一瞬の動作でゴーレムは壊れる。それは主人次第なのだけど、当の主人がためらい、逡巡している、そんな風情です。対象が異風のせいか、詩の雰囲気も異色のものを感じました。晶子さんにおいて珍しい作品でしょう。 タイトルはちょっと違うと思います。もう少し、ドロドロ、奇怪、悪魔的でもいいと思います。これ、おもしろいです。甘め佳作で。
7 朝霧綾めさん 「朝が来た」 7/31
初連、全くその通りですね。そして中盤で2連、情景を出す。正常進化の流れでしょう。4連では少し方向性を変えていますが、これも初連同様、又然りです。終連では溢れるような好意を以て朝を迎えています。実に前向きで清々しいですね。これでいいと思います。もし、もう1連足すとするならば、手を振るに至った自己の心模様は書いておきたい。僕はこんな風に思っています。
〇〇〇〇年〇月〇日は、自分がこの世に一人しかいないように、この世に一つしかない。唯一無二。換えが利かない。一日とて同じ日はない。そんな、それぞれに新しい日を連れて来る朝も日々新しいとは言えそうです。そんなフィーリングを書いてもステキですね。だから朝霧さんは手を振るのかもしれない。佳作半歩前で。
評のおわりに①
LADY JULYは静かに去り
今や
暑苦しく タフガイの
Mr. AUGUST 闊歩
ミウラにとって
暑い日続くも事多し
評のおわりに②
朝の詩が二篇ありました。そこで思い出したのがー知ってる人多いと思いますが―谷川俊太郎氏作品「朝のリレー」です。
シンプルですが思いのこもった良い詩です。初めてのかた、よかったら、読んでみてください。 では、また。