夕空 山雀詩人
〝世界〟とは
地上のことだと思っていた
人家だったり
道路だったり
学校だったり
ビルだったり
要は人がいるところ
それが世界なのだと
でも違った
ここに来て初めて知った
7階のこの部屋から見ると
7割以上が空なのだ
地上はたった3割未満
家や道路や建物が
眼下にちんまり散らばっている
そうか 所詮地上の営みなんて
そんな程度のものだったんだね
いや 横たわった母からは
もう空しか見えないだろう
地上はフレームアウトして
そういう意味では母はもう
空の住人なのかもしれない
もしかするとこの夕空を
自由に飛んでいたりして
寝息をたてて
さも眠ったふりをして
道理で今日はいつもより
空が慈愛に満ちてるわけだ
まるで私を抱くように
とわに包みこむように
でも… まだ行かないで
もう少しだけここにいて
眠ってるだけでいいから
また明日ここに来るから
私はそっと部屋を辞し
再び地上の人となる