自然の摂理のように
言葉が出てこないほどに
こころが枯れてしまったのなら
今は世界からにげていよう
明日のことも考えられない
昨日を思い出したくもない
今だけで精一杯なら
にげていよう
逃げるという言葉からも
にげていよう
そうやって
一歩も外に出ず
カーテンも開けず
昼夜もわからないまま
何日経ったかも知らず
過ぎていく時間を気にも止めず
誰にも会わず
世の中で何が起こっているかも知らずに
ただ来る日を消化していたら
だんだんと
お腹が空いてきた
着替えたくなった
お風呂に入りたくなった
空気を入れ替えたくなった
外の世界にはまだ出ていけそうにない
人に会いたいとも思えないけれど
なせだろう
ふと
空を見たくなった
空はいいよな
何も考えずに
そこにいられて
ぼくは
何者にもなれやしなかったよ
こんなに絶えず
考えているのに
落ちぶれたままだ
何にも考えなかったら
空みたいになれるかな
空〈くう〉を説いたのは誰だったっけ
ぼくには無理だろうな
考えるいきものだもの
あれこれと思い悩んで
たくさん詰め込んで
パンクして
ある日
とつぜん
動けなくなる
いきものだもの
ぷつん と糸が切れ
動けなくなってから
幾日過ぎたのだろう
気づけばいつも
また同じ部屋 同じ布団で寝ている
もう何年も
この調子の繰り返し
だけど どうしても
人生を
諦めきれないような
気持ちに
なってしまうんだ
ぼくが立ち止まっていても
山の色や
聴こえる生き物の鳴き声は変わる
外気も
夜空の星も
街並みも
人も
少しずつ変わっていく
ぼくがいなくても
どうってことない世界に
虚しく取り残されたまま
生きていることも虚しい
そう呟いたら
強い風が吹いた
地球が
大きなため息を
ぼくに向かって
ついたような気がした
ぼくがいなくても
まわる世界のなかで
特別な何かはしていないけれど
呼吸をつづけていた
それが
ぼくが世界とまわるために
唯一必要なことだった
それなのに
どうしてそんなに落ち込んでいるのかと
あの風は言った気がしたんだ
窓を開けて
外気を吸い込む
夜の空気が
ぼくに流れ込んで
夜がぼくの呼吸を
受け止めてくれた
星が綺麗だ
まだ人には会えそうもない
けれども
ぼくは
ここで
世界のなかで
まわっているよ
そうして
また歩きだそうとしてしまう
転んで擦りむいてもまた
ぼくは
そういういきものなのだろう
まるで
自然の摂理のように