匹見峡に遊ぶ 上田一眞
おんぼろ車に君を乗せ
緑濃い匹見川の清流沿いをひた走る
山深い谷間
カナカナカナ
カナカナカナ
蜩の涼しげな鳴き声
ときには遠くで
鹿鳴き 猿が叫ぶ
黒い闇の小径
車のライトに照らされて
白い尻尾を振りながら子狐が走る
狐を追い車を走らせると
いつの間に
匹見峡に着く
陽もいでて
朝日の射す川面にミソサザイが遊ぶ
尻尾をちょこんと上げて
岩の上をちょんちょんと渡る
君の手を取り
そっと掌を合わせる
小さな鳥を二人で追う至福の時
河原を渡る風は涼しく
心地よい
渓流に和竿を垂れ
アマゴを釣る
水が割れ光散らばる川波を
パールマークも鮮やかな魚体が躍る
その神秘的な輝きに
毛針を操る手が震える
夢中になってアマゴ釣りに興ずると
僕の背中を見つめて 君は
つまらげに棒で川面を叩いている
*アマゴ サツキマスの陸封魚