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スレッドNo.2738

稜線  妻咲邦香

幌馬車にゆられ
ぽつんと大地に置かれた
幌馬車にゆられ
何処でもない場所に産み落とされた
幌馬車の上で巡りあう人々
出会いと同時に別れの挨拶もした

私の靴音が誰かの手に触れ
いつか大地の琴線を弾く
 私に仕事を与えてください
 信じることで美しくなれるよう
切り立った稜線を白い翼の渡る
それを捕まえたくて子供らは思わず駆け出す

私たちはよく手入れされた汚物の上に暮らし
絶えず注がれる不思議さに
忙しなく首を傾げる
そうやって気付かぬうちに習慣を増やした
幌馬車にゆられ
人はいつまでも赤子のままで
幌馬車にゆられ
話し足りない話題を抱え
実った果実を見ることもなく立ち去る
それは風のようでもあり
私もいつかそうなれるのだろうかと
訝しみながらも幌馬車は進む
あらゆる分別を愛しさにかえて

景色は私の宝です
それしか私は持ち得ません
出会った事実を不穏な言葉で飾らぬためにも
私はあなたを忘れます

幌馬車ははしる
懐かしい荒野の上を
幌馬車ははしる
既に歩ける赤子を乗せて
鳥のからかう声にもめげず
悪に屈した神をも赦しながら
走る、はしる
車輪は既に外れかけ
紫陽花の祝福もじきに終わる

 私が見えなくなるまで待つ必要はありませんし
 また私もそうしないと決めております

苦い飲み物の思いの外美味であったことなど
思い出しながら、幌馬車は進む
稜線を渡る翼が
今度は向きを変えて
はじめまして
お目にかかれて光栄です
本日は大変お日柄も良く
どちらまでお出かけですか?

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