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スレッドNo.2743

感想と評 9/8~9/11 ご投稿分  三浦志郎  9/16

1 妻咲邦香さん 「記憶廊」 9/8

まず空間的には室内の器物です。まず椅子。そしてテーブル。その上には林檎と急須。描き方の流れは、シュールな詩の全体像の中にあって、きわめて順当、オーソドックスなんです。時間的には、タイトルにもある通り過去。3連目が雄弁にそれを語っています。心理的には、回帰願望、変身願望があるのかもしれない。4連が最も中身濃く面白いかもしれない。対話が成り立っています。
そして急須になりながらも、元の自分は「大きな顔」をして其処にいる。その二重性と奇妙さですね。
さて、終連をどう捉えましょうか?冒頭出て来た椅子に注目しましょうか。「納得も拒否さえもしなかった」あるいは「気まずさだけが~」のあたり……。(過去の)記憶とは納得も拒否もしない、ただ終わった事実として其処にあるだけ。そんなものかもしれません。まあ、評者の勝手な読み方ではありますが。ただ、今回、発想やストーリー立て、修辞表現、どれも面白かったです。楽しめた、といった感覚に近いかも? 佳作ですね。


2 上田一眞さん 「夜光虫のひかり」 9/8

「夜光虫」―これを機会に調べながら写真を見ていましたが、きれいですねー。
夜釣りか何かに出かけて、たまたま夜光虫の美しさを見た。そう捉えたほうが自然でしょうね。
人があまり書かない光景を掬い取ってくれました。そこがまず良いですね。「ぽんぽん船」と擬音との兼ね合いが印象的でした。後半のように身近にはっきり見えるとは知りませんでした。
最後の「父」ですが、最後にだけ出てきて、ちょっと唐突感がありそうです。早い時期にも出しといたほうが、話としては、よりしっくり繋がるでしょう。冒頭付近「父と海へ」みたいな。あとリクエストは、やや遠景からの集団的幻想性を描いてもステキでしょう。 佳作半歩前で。

アフターアワーズ。
先日のコメントで、著作を読んで頂いたとのこと。けっこうマニアックなものを読ませてしまって恐縮しております。
ありがとうございました。


3 小林大鬼さん 「バス停にて」 9/9

まず、蜘蛛のことを書きながら、タイトルをこのようにしたのは、僕にとって好ましい見識であります。
おそらくバスが来るまでの間、たまたまあった蜘蛛の巣をじっと観察していたのでしょう。
これ、何気なく書いているように見えて、その写生力・観察力はなかなかのものです。とりわけ、
3連に見る克明性。これは詩における取材力が無いと書けないものです。「一仕事を終えた蜘蛛」は仕事を終えた大鬼さんも共感するところでしょう。まがまがしい生き物ではありますが、そういったことは感じさせない客観的な匂いもある。タイトルと共に終わり方が少し向きを変えたのもいいですね。バスが“なかなか来てくれない”恩恵のような作品でした。甘め佳作を。


4 エイジさん 「九月の子どもたち 」 9/9

タイトルを自身のことでない方向に振ったのはいいですね。どこか小説の題名のようです。
以前の評に「生き急いでいる」と書きましたが、これもそうですよ。上手いとか下手とかの問題じゃ全然なくて、詩の中での生き方のことなんです。この詩に即して言うと「生き急ぐ」=「諦念のようなものが早く来過ぎている」とでも言いましょうか。現実のエイジさんはそんなことないのかもしれませんが、詩としてそんなエッセンスが顔を出す。そこがやや気がかりなのです。なぜなら、詩はやはりその人を反映するからです。もちろん病気や透析のことは理解しているつもりです。だからこそ、ここは敢えて「だからこそ」と言っておきたい。要は時に意気消沈することがある。そこは以前のように戻してほしい。又、ジャズの詩でも書いてください、スカッとしますよ!書法で佳作、心理で佳作二歩前を(ちょっとややこしいことになったけど……)。

「僕の肩に再び力が宿るのはいつ」―そういう日は必ずやって来ます。必ず、です。


5 詩詠犬さん 「音楽(おと)」 9/9

久しぶりでした。しばらく見ない間に、ずいぶんいい感じで”一歩入った”詩を書かれていると感じました。音楽との関わりを心理性と身体性で捉えた場合、圧倒的に前者が多いのですが、この詩ではむしろ後者で綴られる場面が多い。そこを妙味・個性として見ておきたいと思います。
端的に言えば2連ですね。まず音楽と身体という気づき。それらを詩性を以って言葉として組織化する。冒頭に書いた通り、いいですね。
「その永遠なる色をも 曖昧にして」―ここも好きですね。
そう、音楽ってもっと身体で聴いてもいいものかもしれない。その際「~揺らして 音楽が入ってくる」は象徴であり、提唱にも思えてくるほどです。究極はやはり「~はなしをしている」でしょうね。
ちょっと久しぶりなので書いてみます。詩詠犬さんはおいくつかわかりませんがー失礼ながらー以前は作風がもっと幼かった気がします。ぐっと大人びた詩を届けてくれました。ヘンな賛意で申し訳ないんですが。ブランクがあったんで評なしにしようと思ったんですが、上記理由で甘め佳作を。音楽を愛する者として、これは嬉しい詩です。


6 freeBardさん 「笹船」 9/10

冒頭佳作です。 これは相当な収獲ですぞ。
読み応えがありました。まず、それが第一、そして全て。その読み応えを少し細かく見ていきましょう。「ぼくと笹船」それぞれに孤独があって、ぼくは笹船に遊んでもらった。そこに感謝があります。
いっぽう笹船にも屈折したものがあって、ぼくはその笹船の立場や心情を充分に理解し、労い気づかう優しさを持っています。それは「ちょっとだけかわいそう」「やっぱりつらかったろう」によって明らかです。後半は幻想フレーバーも入って、詩は抒情の、より高みへ到達するかのようです。「ふたり」は同等の友人です。そして以前に帰って来る感覚と「今度は僕が~」の気持ちも大事です。気づかいと感謝です。この子供の健気な優しさは特筆したい。子供らしい語り口も上手にこの詩を押し上げています。
評価を変えます。冒頭”上席“佳作です。

アフターアワーズ。
あれ?前半「ぼく」だけど、後半「僕」になってますね。それとも後半は少し成長したという意味合いで「僕」なんですかね? 
まあ、統一しておきましょうか。この詩の性格上、「ぼく」でしょうね。


7 ベルさん 「金色(こんじき)のチャンピオン」 9/11

ビールをグビッとあおって「プハ~、この為に働いているんだよ!」―そういう人いますよねえ。
大いに賛同できるものですねえ(笑)。この詩はそういったもので単純明快、理路整然。
難しく書く要さらさら無し。中央部を占める2~4連はなかなか気が利いた綴り方ですね。
「まだまだあるぞと火曜日の夜」―なるほど、その通り。ここ、リズムがあっていいです。
リズムと言えば、この詩全体がリズムの親玉であるグルーブ(ノリ)を感じます。こういう陽気な詩はグルーブが無きゃウソですよ。音楽と一緒ですよ。メカニカル的に言うと、語尾の処理と次行へのリターンが鮮やかだからです。この調子で願います。
「アルコール消毒」―これですね。どうやら結論が出たようですな。タイトル「~チャンピオン」もこの詩のフィーリングに符合します。苦みならぬ甘め佳作を。


評のおわりに。

我が詩人会では、8月に朗読とジャズの出会いがあり、9月は詩と絵画のコラボレーションがあります。まさに詩の動と静。 
詩がステキな隣人たちと出会うひとときです。詩も絵画も静物と言えるでしょう。静かなること祝いのごとし。では、また。

編集・削除(編集済: 2023年09月16日 12:50)

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