2023/9/12(火)〜2023/9/14(木)の感想と評になります。 齋藤純二
評が続いてすみません。
『初心者向け投稿板』の方もけっこう作品が投稿されていまして、そちらの感想が書けていませんので、こちらの評を早めに出させていただきます。今回で、私のこちらの掲示板の評担当は最後となります。約6年、635作品を担当させていただきました。投稿していただいた作品から感動を与えてもらったり、学ばせていただいたことばかりで、とても感謝しております。誠にありがとうございました(うるっとしてしまっている私です)。
成り行き 喜太郎さん 9/12
流れに身を任せればそれなりに安心感はあるが、そこには満たされない自分がいて、生き方を模索している心情がよく伝わってきます。私が私らしく生きるために、身体が多少傷ついてもその流れに抗ってみれば、そこでの「泳ぎ方」を覚えるという結びがぐっと作品をしめています。それは少しづつでもいいから、希望や夢に進む読者への励みとなるメッセージもいいですね。「流れ」に対して「浮かぶ」「沈む」「身を任す」「抗う」というニュアンスの言葉が乗っていて、それこそこの作品が上手く「流れて」います。
タイトルが「成り行き」となってますが、話の流れは「抗い」なので、そにへんを含んだタイトルでもいいかもしれませんね。
評価は「佳作」です。
早朝の世界 樺里ゆうさん 9/12
早朝、人間が作った人工物の世界に人間以外の生物が歩いていたり、群がっているというユニークな視点がこちらの作品の面白味となっていますね。早朝の静けさの中に我々の気づかない世界があって、そこは人間の街というようりは、それらの生き物の世界だという発想も素晴らしいです。
私も早番の時には5時頃に家を出ますので、まだ薄暗い静かな街を歩いていると、自分の足音だけが聞こえてきて、街は寝ているようだ、なんて思いながら歩いたりします。早朝はなんか不思議な気持ちになります。駅に近づくと同じような出勤者が現れ、自分だけじゃないんだ、と勝手にほっとしたりしますね。
こちらの作品からその早朝にある静かな雰囲気と、その場にいる生物の様子を感じながら楽しく拝読させていただきました。
評価「佳作」です。
畏敬 村嵜千草さん 9/12
初めまして村嵜さん。私は齋藤と申します。よろしくお願いします。今回は感想を書かせていただきます。
拝読しまして「あなた」が身近な存在とういう感じなので、父親か母親なのかと想像していました。また、身近な存在ではあるが、触れることもできない距離感がある関係でもあるようです。あなたの怖さがどこから来ているのか、そして自身があなたにとってどう思われてもいるか、答えを求めている雰囲気を醸し出している作品です。
「〜ですか」「〜でしょうか」「〜したか」「せんか」「でしょう」と、あなたへ問いかけている構成で作品が綴られ、強いメッセージの発信として読者に伝えることに成功しています。
最終連にはあなたがずっと変わらず怖い存在である意味で、「神様でしょうか」「世界でしょうか」となっているような気がします。そして「あるいは」は、自身がもっている答えはあるけれど、それを発せず終わらせて大きな問いかけのようですね。このモヤモヤ感を与えるシメもなかなか強烈でした。
私は勝手に「あなた」を親としての存在で拝読していましたので、もしかしたら自身もあなたと同じような思考で似ているのかもしれない(親子だから)、と気づいてしまったのかも、そんな想像しながら楽しませていただきました。また「涙や傷や絶望が足元を削るのを/どうして跨ぎましたか」と、とってもセンスがある表現は凄いですね。圧倒されました。
タイトルが「畏敬」、作中に「怖れ」「畏れ」の表記がありまして、この使い分けがよくわかりませんでした。二連の「畏れ」は偉大過ぎる存在として考え、そうしているのかなとも思いましたが、ちょっと引っかかりを感じますかね。
とても書く力量を感じさせる詩人さんの作品として拝読させていただきました。またのご投稿を楽しみにしております。
歌舞伎詩人たちへのアンチテーゼ えんじぇる さん 9/13
初めまして、えんじゃるさん。私は齋藤と申します。よろしくお願いします。今回は感想を書かせていただきます。
「歌舞伎詩人」、おっとこのユニークそうな詩人はどんな人なんだろう、と思いつつ読み出しワクワクしましたね。想像もつかなかったので。
他の詩人へ言いたいことを伝えているようですね。詩はまず吠えなくてはいけない、そして建前と見栄を張り、踊り、正義のため、また沈黙を守り、思想を持たずに流動的出なければならないと。これは詩世界のヒーロー的な存在なんだろう、と熱く語られているこちらの作品を拝読し、そういう考え方もあるのだと楽しませていただきました。その「カブいている」という表現もかなり「イケている」って感じでした。なんせ、詩人と歌舞伎を合体させていること自体が、凄い発想で驚きましたよ。「詩はカブいている」、もっと言葉に執着し躍動した表現がなければいけない、という詩の世界を活気づけたい作品のようにも思いました。いや〜凄かったよ。
またの、そのえんじぇるさんの熱い詩への思い、熱い詩をお待ちしています。次なる作品も楽しみにお待ちしております。
秋 紫陽花さん 9/14
秋の雨、とても寂しげだけれども落ち着きを与えさせる、負の癒しとでも言いましょうか、そんなイメージで雰囲気を味わいながら拝読させていただきました。
秋という季節が葉っぱを落としそこに雨が落ちたのか、雨が葉っぱを落としたのかはちょっとわからなくなりましたが、「秋が葉っぱをぽろぽろと落とし」と「涙はぽろぽろとこぼれ」の表現が外の景色と自身とを共鳴させている表現は素敵です。
涙が溜まり池になり、そこに魚がきて涙を抱きしめながら励まし、嬉し涙に変わるという「ファンタジーな展開」もいいですね。このような世界観を詩といった短い文の中で表現するのは難しい作業だと思いますが、話の流れを考えながら作品を仕上げていまして凄いなあと思いました。
描写された場面を拝読していまして、ちょっと引っかかるところを推敲されると、もっと雨に潤う作品になりますかね。ガラスの内側(室内)で雨の音を聞いていて、涙が地(外)にこぼれ池になるというのが、室内外がズレて映って見えてしまいました。外の雨を自分の涙として語り、それが池になったという感じならば、その意の補足が必要かもしれませんね。あと魚の存在が秋と絡んだイメージがなく感じられ、ちょっともったいないですかね。半分は魚の話しだったので。ここを結びつけるの難解かもしれませんが……。秋刀魚?それはないかっ。「重たい雨」というのが、あまり静かに感じる気もしないかな、とも思いました。このへんをご一考くださいませ。
秋が自分を寂しくさせ、秋が私の涙を優しいと癒してくれる構想はとても素敵な作品です。涙の池を魚が泳ぎ、それを「優しい優しいと撫でる」という表現は、ほんと最高でしたね!
評価は「佳作一歩前」です。