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スレッドNo.2767

雨の夜  雪柳(S. Matsumoto)

雨の降る夜更けに
どこからか
子猫の鳴く声が聞こえる
迷子なのか
誰かが捨てていったのか

暗がりを探し回ったところで
見つけるのは難しいだろう
一人では きっと助けられはしないだろう
そうやって言い訳をして
仕方がないと 見離してしまう
それは 実はこれまでに何度もあったこと
助けを求めるものたちを
置き去りにしていくような、そんな
行ない、似通った過ちは。
自分が弱く 拙く 愚かなせいで
人でも ほかの生き物でも
近しかったものでも
テレビが伝えた類いの 見知らぬものでも、
繋がりや 約束めいたことを 心が遠ざけて。
この雨の中の子猫の鳴き声は
以前に置き去った彼らの嘆きに思えてくるのだ

過去になったものたちには とうに手遅れの
応えようとする試みや 償いの代わりなのか
なけなしの良心が
手を伸ばしてきて 私をとらえ
報いを受け取るのにふさわしいところへと
運んでいる気がする
馴染めない窮屈な環境の 空気の重たさが
やがて淋しさと胸の傷に変わってゆく、
そうした仕組みの いくつもの場所を 
長い間 巡り巡って
錆びついた玩具のようにくたびれ果て
一人きりの部屋に捨て置かれているのだから

花咲く緑の野辺や 光踊る海や 満天の星を
最後に眺めたのはいつだったか
もう 思い出せない

この雨の夜の奥には
苦しみに哭くものが
ほかにもまだ 数多くいるのだろう
記憶の底に残っている
置き去ってきたものたちの
鎮まらない魂が
共鳴して 声を響かせ始めはしないだろうか
夜が哭くように

自分の内の 無力さや愚昧さが
罪を灯し続け
取り消せない その印を抱いて
何度でも 覚えのある場所へ向かう道を辿る。
変えることの叶わない
何か企てのようなシステムに絡め取られて
なすすべもなく 私はただ
雨の夜の闇が連れてくる 心を苛む声に
耳を傾けている
昔見た 澄み渡る景色から遠く隔てられ
いつまでも卑しく 淋しいままで

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