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スレッドNo.2777

私とマドリ  妻咲邦香

理由もなく濡れるのが嫌で
だから雨が嫌い
蔑まれてでも私を救ってくれた
その人から逃げ出して
遠い軒の下
晴れ間を待っている

だから世界に雨が降る
だから世界は濡れたがる

今日の雨宿りを忘れてしまうなら
これ以上大事なものはもう出て来ないだろう
今日の雨宿りに名前があったなら
二人にしかわからないあだ名で呼び合いたい
隣に立っている見知らぬ人と
今にも駆け出して行きそうな人と
最後まで残るつもりの私と
でも私にしかわからないもう一人の名前が
そこにある

濡れながら飛び出していった人を
黙って見ていた
アマヤドリ、お前も見てただろう
ようやく小雨になって空を見上げた私が
意を決して歩き出した
その後ろ姿を見送って、お前は存在の意味を失って
消えた
何の出会いも物語も産み出さぬままに

だけどアマヤドリ
アマドリ
マドリ
お前にだけは出会えた

夕刻を知らせるチャイムが鳴って
私がいつか思い出すのは
今日の雨宿りではないのかもしれない
先に駆けていったあの人こそが
もしかして
お前を思い出すのかもしれない

明日私が風邪でもひいたというのなら
そして熱でも出して寝込んだというのなら
お前は私の中でひょっとしたら
いつまでも、そこに暮らして

理由もなくすれ違うのが好きで
遊びながら生きている
時にはどちらかを傷付けながら
海の上にも雨が降る
受け止める人がそこに誰もいなくても
濡れることすら意に介さぬ鳥がいたとしても

それでも世界に雨は降る
それでも世界は美しい
と言いたい

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