残暑 井嶋りゅう
昨日まで空腹を感じていたのに
今朝はぴたりとやんでいて
何も受けつけなかった
鏡を見たら頬の腫れがひいていて
痛みもなくなっていた
(迫ってくる大きな手が私の頭や顔を何回も叩いた)
夜の記憶の隅で季節が枯れる
ひと夏じゅう
私はずっと加害者と呼ばれ不誠実となじられた
降りかかる災いは
質の違うふたつの禍々しい出来事を共存させ
私はウイルスに差し出されて犯された
部屋に死体がある物語を読んで
荒れた唇の皮を無意識に食べている
(ぺちゃくちゃとよく喋る舌は引きちぎれ)
くすんだ九月が長い
疲れます誰かに代わってほしいですよまったく
サラリーマンが喫煙所で笑い合う
笑うのは恐怖心を抱く時だけで
冗談にして逃げるための助走だから
本当はしらけている
色にまみれた日常