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スレッドNo.2825

低い雲  江里川 丘砥

一瞬の激しい雨のあと
暗い昼が訪れ
心にも影がさす

涼しさのかわりに
洗った靴はびしゃびしゃ
ジメジメと乾かない空気が
ますます辺りを暗くする

トラックが
水たまりを走った
水しぶきが
真っ白なガードレールを汚した
白い棒から滴る黒い水が
草の上に落ちると
草があまりにも
健気にゆれるものだから
ぼくはなんだか悲しくなった
草の上に落ちたのは
ぼくの涙だったろうか

ゆれる草をしばらく見ていた
雨に打たれて
踊るように跳ねている
蛙まで寄ってきて
嬉しそうにはしゃいでいる
気持ちはひとつもわからないのに
ぼくはなぜだか嬉しくなった

雨上がり
雲のすきまが広がる
あたたかさが戻ってくる
ふいに見た山の上

妙に低い雲が浮かんでいた

山から立ち上がる靄が
何本もの柱となり
雲に吸い寄せられている
低いまま
雲はふくらむ
重い空気まで
吸い込んでゆく

なんだか
不思議なものを見た
ぼくの頭上にも
小さな雲ができる
もわっとした気持ちが
吸いとられてゆく

頭上にできる雲が
頭くらいの大きさなら
そんなに暗い気分じゃないな
傘くらいの大きさなら
少し注意が必要だろう
家まで覆ってしまいそうな気配がしたら
溜め込まないように
少しずつ
雨にして
降らせておこう

ぼくの頭上にできた雲は
いつでも
道端の草にあげるよ
あんなに嬉しそうに
ゆれてくれるのなら
暗い気持ちも
悪くはないかな
小さな小さな雲にかえて
雨を喜ぶ
草にあげよう

ぼくの暗い気持ちまでも
吸いとってくれた
山の上の
あの低い雲は
今ごろ
どこを漂うのだろう

編集・削除(編集済: 2023年10月02日 16:22)

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