低い雲 江里川 丘砥
一瞬の激しい雨のあと
暗い昼が訪れ
心にも影がさす
涼しさのかわりに
洗った靴はびしゃびしゃ
ジメジメと乾かない空気が
ますます辺りを暗くする
トラックが
水たまりを走った
水しぶきが
真っ白なガードレールを汚した
白い棒から滴る黒い水が
草の上に落ちると
草があまりにも
健気にゆれるものだから
ぼくはなんだか悲しくなった
草の上に落ちたのは
ぼくの涙だったろうか
ゆれる草をしばらく見ていた
雨に打たれて
踊るように跳ねている
蛙まで寄ってきて
嬉しそうにはしゃいでいる
気持ちはひとつもわからないのに
ぼくはなぜだか嬉しくなった
雨上がり
雲のすきまが広がる
あたたかさが戻ってくる
ふいに見た山の上
妙に低い雲が浮かんでいた
山から立ち上がる靄が
何本もの柱となり
雲に吸い寄せられている
低いまま
雲はふくらむ
重い空気まで
吸い込んでゆく
なんだか
不思議なものを見た
ぼくの頭上にも
小さな雲ができる
もわっとした気持ちが
吸いとられてゆく
頭上にできる雲が
頭くらいの大きさなら
そんなに暗い気分じゃないな
傘くらいの大きさなら
少し注意が必要だろう
家まで覆ってしまいそうな気配がしたら
溜め込まないように
少しずつ
雨にして
降らせておこう
ぼくの頭上にできた雲は
いつでも
道端の草にあげるよ
あんなに嬉しそうに
ゆれてくれるのなら
暗い気持ちも
悪くはないかな
小さな小さな雲にかえて
雨を喜ぶ
草にあげよう
ぼくの暗い気持ちまでも
吸いとってくれた
山の上の
あの低い雲は
今ごろ
どこを漂うのだろう