I AM GONE 三浦志郎 10/10
一色
アスファルトに
鮮やかな忘れもの
一輪
路上に置きざり
はぐれた花
薔薇が落ちている
どういう事情があったのか
まだたっぷりと
赤みを残しているのに
おりから雨が襲う
これでもか と ばかりに
花弁を打つ
しずくが蹂躙する
花は棘で抗うこともなく
運命にひれ伏している
けれども この街に
彩りの在り処を
知らせることを忘れない
花も生きものとするなら
紛れもなく死に瀕している
たとえ雨がやんだとしても
事態は好転しないだろう
見ようによっては惨劇である
私は急に立ち止まり
傘を閉じた
目を閉じた
しずくが頬から喉元を過ぎ
心にまで染み入る気がした
他人の肩が軽くぶつかる
すれ違うように雨の音は蘇る
( SAME OLD STORY )―よくある話さ
過ぎ去る人々はそう思いつつ
視線を柔らかにして
気持ちだけ薔薇の姿に
白いヴェールを掛けていく
それだけだ
薔薇を救う手立てはある
キザでも何でもない
恥ずかしがることはない
黙って拾い
胸ポケットに差せばいい
持ち帰り
リビングの花瓶で生かせばいい
しかし世間は敢えてしようとはしない
自分は? といえば
優しいピアノの音を思い浮かべ
雨のトレモロのように口ずさんだ
薔薇に届けばいいのだが
( I AM GONE )―さよなら もう行くよ
その旋律のまま立ち去った
見つめたまま何もしなかった
所詮は
私も世間という名の一人
くだらぬ男だ
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滝本政博様
評者就任、おめでとうございます。お祝いにまいりました。
記念に軽くコメント下されば幸いであります。