プラネタリウム 秋さやか
秋の空気を纏った人々が
ぞろぞろと
吸い込まれていく
プラネタリウムの場内
投影機を取り囲んだ席の
どこが特等席かわからず
心許ない気持ちのまま
みな散り散りに腰をおろしてゆく
丸天井の
無機質な白を見上げる
瞳の無垢さ
子供は少し大人びて
大人は少し子供に戻って
待ちわびている
日常の眠るとき
ふっとこぼれた
溜息とともに照明が消え
浮かび上がってくる
いつかの空
早送りされてしまう
夕暮れの寂しさを
見つめながら
居場所は心地よく見失われてゆく
そうしてふわりと放り出される
数多の星のなか
解説員の
ゆったりとした声は
霧雨のように
しずかにしずかに
しみてくる
胸底は
どこまでも続いていく夜道に
繋がり
大昔のあなたを想像し
大昔のわたしを巡る
神々の物語は
わたしたちの欲や罪を引き受けて
燃えつづけるだろうか
星座をなぞる視線は
ペガススの翼に吸い込まれ
瞼の閉じ方を忘れそうになる
そのままなにもかもを忘れそうで
なにもかもを思い出しそうな
そのとき
傍らから聞こえてくる
見知らぬ人のいびき
なんて安らかな震え
なんて微笑ましい響き
ふぅと
ふたたびついた溜息が合図のように
パッと照明が灯される
浮かび上がってくる
あたたかく重たげな体
弓も槍も持たない無防備な
けれどもまだ
どこかで星の瞬きを感じながら
静かに立ち上がると
人々は少しやわらいだ影を連れて
また日常へと
溶けてゆく