言葉を 江里川 丘砥
言葉を
どれほど
取りこぼしてきたのだろう
誰かとの何気ない会話のなかに
見落としてきた
思いやりに溢れた言葉や
気づきをくれる言葉が
たくさんあったはずなのに
閉ざした心に弾かれて
どれほど
取りこぼしてきたのだろう
今日心にとまった
あなたの言葉は
どうして
取りこぼさなかったのだろう
たまたま心に余裕があった
それだけなのかもしれない
今日心にとまった言葉は
そこに込められた思いは
閉ざした心に
優しいひかりをあてて
うつむいた目線を青空に向けた
もう消えてしまってもいいやと
沈んでいたのに
この世界も悪くないかな そう思えた
月に二回
病院と家の往復だけ
ひきこもってしまった私に
将来が不安で
けれども
何かをする元気もない私に
うなだれて
話す元気もない私に
このままあと何十年も
生きてなんていけないという私に
先生が
かけてくれた言葉
「何年も先のことを考えられない時は
一年先のことを
それが無理なら半年後
それも無理なら一ヶ月先
それも無理なら一週間先
それも無理なら明日のことを
それも無理なら
今日一日のことだけ
今日のことも無理なら
今、目の前のことだけ
それだけでいい
そうやって過ごしていると
明日のこと
一週間後のこと
一ヶ月後のこと
一年後のことって
気がつけば
先のことに目を向ける気持ちがでてくるもの
元気は一気には出ないけれど
だんだんと溜まってくるものだからね」
今日のこの言葉を
これから何年先にも
思い出していると思う
向かい合って話した時の
空気
部屋の雰囲気
うつむく私に
そっと手を差し出すように
渡してくれたその言葉を
向こう何年も
ふとした時に
思い出して
今日を生きるための
力にしていくだろう
言葉を
どれだけ
取りこぼしていたとしても
いつか
必ず
届くよ
大切な言葉なら
ずっと隣りにあるよ
今日
あなたの言葉を
取りこぼさなかったように
くりかえし
くりかえし
必要な時に
言葉は
やってくる
だから
安心して
待っていてもいいよね
何度
取りこぼしていたとしても
必ずまた
会える
あなたの言葉を
今日
受け止められたように