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スレッドNo.2907

カモミールの白い花に寄せて  久遠恭子

ひと言話しては無口になって
沈黙が怖くて無理に話しかける

搬送されたのは救急病院で
怪我で言葉を話せなくなった父に
何を話しかけたらいいのか分からなかった

母はこれからどうなるのかと心配していて私は口籠るしか出来なかった

数週間が過ぎて病院に行く道すがら
カモミールの白い花が一輪だけ街路の片隅に咲いていた
私はそれを手折って父の鼻先に近付けたらニコニコと笑ってその匂いを嗅いでくれた

父に対していい思い出ばかりではなかったけれど
動けなくなった父を見て
全て許そうと思った

ある日の早朝家で寝ていると
電話のベルが鳴って病院に呼び出された
危篤ですと言う
けれど病室で父は息を吹き返し私に指先でよく来たなと挨拶した

なあんだと思っていたけど
家族が集まって皆んなが見守る中
父は息を引き取った

とても我儘な父だったけど
亡くなって十年近くなった今でも
あの時のニコニコした笑顔は忘れない
お父さんありがとうね

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