街を歩く 江里川 丘砥
街を歩く
風と歩く
夜の街はにぎやかに
ぼくの歩調を軽くする
街を歩くと
聴こえてくる
人の声
車の走る音
街頭モニターからとめどなく流れる広告
路面電車の発着は絶え間なく
月明かりよりも
星明かりよりも
たくさんの街灯に
街は照らされている
竹藪の揺れる音はない
虫の鳴声も聞こえない
ぼくの町とは違うけれど
軽快な音が
活気の溢れる声が
ぼくの歩調を軽くする
街は今日も生きているな
ぼくは今日も
生きていたな
きみも生きていた
しっかりと
ぼくらは
ひとりひとりの人生を
生きていたんだ
遠くから
会いにゆけて
よかったよ
笑ってくれて
嬉しかったよ
またいつか
会えるかな
この街は
変わらずにいるかな
変わっていてもいいや
ぼくらも
変わりゆくのなら
街も
変わりゆくほうがいい
街を歩く
街がぼくを歩かせる
次々と変わる景色
行き交う人々
土曜の夜はまだ眠らない
久しぶりに歩く街が
きみに会えた嬉しさが
ぼくを歩かせる
さっきまでの
幸せな時間
余韻をかみしめ
街を歩く
ふいに 立ち止まり
空を見上げる
ビルが突き抜け
その先にある夜空は
いつもの空よりも
高い
街の光に照らされて
空もまだ
眠りそうにはない
街を歩く
イヤホンで耳を塞がずに
街の音を聴きながら
きみの話しを
声を
思い出しながら
きみと歩くように
街をゆく
奇蹟は
あるのかもしれない
家から出ることもできなかったぼくが
遠い遠い町から
きみに会うために
電車やバスを乗り継いで
この街まで出てきた
生きていてよかったと思えた
生きていたから
今日きみに会えた
きみも
きみを止めずにいてくれたから
ぼくらは
今日
会うことができたんだ
奇蹟は嬉しいけれど
それだけじゃないな
きみが
呼び寄せてくれたんだ
ぼくが
手を精一杯に広げて
掴み取ったんだ
きっと そうだ
街を歩く
風と歩く
きみの声と歩く
ともに過ごした時間と歩く
喜びと歩く
きみと歩いている
駅はもうすぐ
土曜の夜は
これからはじまるように
たくさんの人
帰る人
向かう人
今日を惜しむ人
ぼくはこれから
ぼくの町へ帰るよ
この街に
次はいつ来られるだろうか
分からないけれど
生きていよう
きみも
生きていると
言ってくれたから
ぼくも
生きていよう
苦しくなるほど
頑張らなくてもいいから
とにかくでいい
とりあえずでいいから
生きていよう
ぼくの町に
帰り着くと
月光に照らしだされた
いつもの町が
待っていた
街灯は遠くに二つだけ
竹藪が揺れる音
鹿が駆ける音
虫は鳴いても
人は見えない
何も変わらない
けれども
夜の空気は
やけに清々しく凛として
ぼくは
またここで
生きていくんだって
笑って
夜空を見上げた
風が吹いていた
きみと会った
あの街を
ともに歩いた
風だった
生きてみるよ
また
会いにゆけるように
また
生きていてよかったと
思えるように