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スレッドNo.2956

街を歩く  江里川 丘砥

街を歩く
風と歩く
夜の街はにぎやかに
ぼくの歩調を軽くする

街を歩くと
聴こえてくる
人の声
車の走る音
街頭モニターからとめどなく流れる広告
路面電車の発着は絶え間なく
月明かりよりも
星明かりよりも
たくさんの街灯に
街は照らされている

竹藪の揺れる音はない
虫の鳴声も聞こえない
ぼくの町とは違うけれど
軽快な音が
活気の溢れる声が
ぼくの歩調を軽くする

街は今日も生きているな
ぼくは今日も
生きていたな
きみも生きていた
しっかりと
ぼくらは
ひとりひとりの人生を
生きていたんだ

遠くから
会いにゆけて
よかったよ
笑ってくれて
嬉しかったよ
またいつか
会えるかな
この街は
変わらずにいるかな
変わっていてもいいや
ぼくらも
変わりゆくのなら
街も
変わりゆくほうがいい

街を歩く
街がぼくを歩かせる
次々と変わる景色
行き交う人々
土曜の夜はまだ眠らない
久しぶりに歩く街が
きみに会えた嬉しさが
ぼくを歩かせる

さっきまでの
幸せな時間
余韻をかみしめ
街を歩く
ふいに 立ち止まり
空を見上げる
ビルが突き抜け
その先にある夜空は
いつもの空よりも
高い
街の光に照らされて
空もまだ
眠りそうにはない

街を歩く
イヤホンで耳を塞がずに
街の音を聴きながら
きみの話しを
声を
思い出しながら
きみと歩くように
街をゆく

奇蹟は
あるのかもしれない
家から出ることもできなかったぼくが
遠い遠い町から
きみに会うために
電車やバスを乗り継いで
この街まで出てきた
生きていてよかったと思えた
生きていたから
今日きみに会えた
きみも
きみを止めずにいてくれたから
ぼくらは
今日
会うことができたんだ

奇蹟は嬉しいけれど
それだけじゃないな
きみが
呼び寄せてくれたんだ
ぼくが
手を精一杯に広げて
掴み取ったんだ
きっと そうだ

街を歩く
風と歩く
きみの声と歩く
ともに過ごした時間と歩く
喜びと歩く
きみと歩いている

駅はもうすぐ
土曜の夜は
これからはじまるように
たくさんの人
帰る人
向かう人
今日を惜しむ人

ぼくはこれから
ぼくの町へ帰るよ
この街に
次はいつ来られるだろうか
分からないけれど

生きていよう
きみも
生きていると
言ってくれたから
ぼくも
生きていよう
苦しくなるほど
頑張らなくてもいいから
とにかくでいい
とりあえずでいいから
生きていよう

ぼくの町に
帰り着くと
月光に照らしだされた
いつもの町が
待っていた
街灯は遠くに二つだけ
竹藪が揺れる音
鹿が駆ける音
虫は鳴いても
人は見えない
何も変わらない
けれども
夜の空気は
やけに清々しく凛として
ぼくは
またここで
生きていくんだって
笑って
夜空を見上げた

風が吹いていた
きみと会った
あの街を
ともに歩いた
風だった

生きてみるよ
また
会いにゆけるように

また
生きていてよかったと
思えるように

編集・削除(編集済: 2023年10月29日 15:00)

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