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スレッドNo.3021

微笑み  朝霧綾め

帰り道を歩く革靴の音が
今日はいつもより
高く響く気がして
ちょっと耳につく

風が冷たいので
カーディガンを羽織ると
ボタンが一個ずつずれていた
冷えた指先で留め直す

今朝の友だちの話
「K君って彼女できたんだって」
私はへえ、そうなんだ、と答えた
そのあとは普段みたいに
次の授業や部活のこととか話した

それだけのこと
別に何とも思ってなかった
はずなんだけど

あの人とは
去年クラスが同じで
席も近かったから
それなりに仲良くしていた
本が好き
男子にしてはうるさくない
性格もそれなりによかったような
消しゴムを忘れたとき貸してくれたっけ
なぜかそれだけ覚えている

信号待ちで目をあげると
数メートル先に
あの人がいる
隣にいるのは彼女さんか

私、あの人のこと
好きだったのかな
わからない
でも
何もしなかった
それは事実

あの人と彼女さんの数メートル後を
一定の距離を保って歩く
二人の話し声が聞こえる
話し声に笑い声もときどき混じる

聞くたびに胸がひりひりする
でも この痛みがなければ
好きだったということにも
気づかなかった

ならもうちょっとだけ
傷ついていたい
好きだった
その気持ちを
確かめていたい

二人の歩調がゆっくりになり
突然止まった
どうしたんだろう
すると二人はつつきあいながら
笑いあいながら
喫茶店の中に入っていった

なるほど
学校帰りにデートか

私は
ふっと微笑んだ

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