いちじくと蟻ん子 上田一眞
えび煎餅を焼いてた家(うち)のそば
小さな水路の石垣に
おじいちゃんが植えたいちじくの木があった
春と秋の二回
小振りながらも甘くて美味しい実をつけた
秋の運動会の頃には
秋いちじくの実が熟れてきて
弾けると食べ頃だ
今年も豊作
枝から一つ取って
洗いもせずにかぶりつく
ジョリジョリとした食感が口に残る
あれぇ いつもと違う味だな
ちょっとした違和感
実を見れば
果実に開いた穴から出入りしてる
黒い奴
ああ分かった 蟻ん子だ
しまった
いっしょに食べちゃった
よく確かめもせずに
いちじくの実を放り込んだから
蟻ん子もいっしょに口の中
どおりで苦くて虫臭い妙な味だ
蟻ん子は昇天
ぼくの腹のなか
可哀想なことをしちまった
いちじくの実をもぎ取ると
茎から滲み出る白いねっとりした樹液
それに群がる小さな蟻ん子たち
もぞもぞと
ちび蟻が捉まった
突然 蜂が飛んで来た
天敵の来寇に気がついて
どん臭く
あたふたする蟻ん子
ますます樹液に絡まってもがいていた
いちじくの葉は震え
ちび蟻よ あわてて逃げないで
とでも言いたそうだ
甘酸っぱくて美味しい
秋いちじくの実を味わいながら
蟻ん子たちのドタバタを見ていると
自然と
僕の顔はほころんで
ホコホコと温かな気持ちになった
おじいちゃんもいちじくを頬張りながら
蟻ん子の行列を見たんだろう
自然の営みっていいなあ!
昔から続く
わが家の小さな秋のドラマだ