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スレッドNo.3080

感想と評 11/14~16ご投稿分  水無川 渉

お待たせいたしました。11/14~16ご投稿分の感想と評です。コメントで提示している解釈やアドバイスはあくまでも私の個人的意見ですので、作者の意図とは食い違っていることがあるかもしれません。参考程度に受け止めていただけたらと思います。

なお私は詩を読む時には作品中の一人称(語り手)と作者ご本人とは区別して、たとえ作者の実体験に基づいた詩であっても、あくまでも独立した文学作品として読んでいますので、作品中の語り手については、「私」のように鉤括弧を付けて表記しています。ですが、「私」=「作者」の場合はもちろんそのように読み替えて読んでいただければ幸いです。

●積 緋露雪さん「役立たずの愚者でありたい」
積さん、こんにちは。この作品は明らかに宮澤賢治の「雨ニモマケズ」のパロディですね。

雨にも負けて
風にも負けて

という出だしから、てっきり「雨ニモマケズ/風ニモマケズ」という賢治の詩の「ワタシ」とは正反対の人物像が描かれるのかと思いきや、読み進めていくとそうとばかりは言えないのが興味深いところです。

この詩は高度に発展した科学技術が人間のコントロール能力を超えていきつつある現代社会と、そこに生きる人間の不安を描いています。2045年にはAIの能力が人間を超えると予測されているようですが、その先にはどのような未来が待っているのか、そこには人間の居場所はあるのか、という深刻な問いが提起されています。

そのようなディストピアにおいて、人間性を保持していくために唯一の残された道は国家のために何もしない、「役立たずの愚者」になることだ、という主張がなされていると受け止めました。

「雨ニモマケズ」との比較に戻りますと、忙しく他者のために働き回る賢治の「ワタシ」とは対照的に、この詩の語り手は何もしない「役立たずの愚者」になりたいと言います。けれどもこのような語り手の理想像は、

ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ

という賢治の理想像と驚くほど似ています。そう考えると、タイトルにもなっている「役立たずの愚者」は文字通り受け取るべきではなく、アイロニーとして書かれているのではないかという解釈も成り立つように思います。それはますます人間性を締め出していく社会に反抗する最後の「人間」の姿なのかもしれません。詩人はそういう「役立たずの愚者」に含まれるのでしょうか。

誰もが知る有名作品を取り上げ、現代ならではの問題意識をもって有意義な対話を行った素晴らしい作品であると思います。唯一改善点があるとすれば、3連におけるAIについての長い叙述はやや冗長に感じられますので、もう少しコンパクトにした方が全体のバランスが良くなると思いました。評価は佳作半歩前となります。

●紫陽花さん「私は嘘でできている」
紫陽花さん、こんにちは。本当はやりたくないけれども、なかなか面と向かって断ることができず、いろいろな頼みを不本意ながら引き受けてしまう。そんな人は多いのではないでしょうか。評者である私自身もそんな傾向があります。この作品は日常生活の中で経験する心の葛藤を描いていて、多くの人の共感を呼ぶ詩ではないかと思います。

ただ、この詩は全体として深刻なトーンで書かれてはいません。「炸裂」「危険センサー」「Xデー」という、随所に散りばめられた表現からはユーモアさえ感じられます。語り手の「私」はお人好しの自分を少し離れたところから眺めている感じがしますが、その視線は必ずしも自己嫌悪のようなものではなく、むしろそうした自分をほほえましく受け止めているような印象を受けました。「また私のお人好しが炸裂した」という出だしも良いですね。

だとすると、終連で繰り返され、この詩のタイトルにもなっている「嘘」ははたして額面通り受け取るべきなのだろうか、という疑問もわいてきます。たしかに人助けは大変でやりたくないので、そうでないかのような顔をして引き受けるのは「嘘」になるかもしれません。けれども、「私」の心の奥底には、困っている人を助けたいという真心がやはりあるのではないでしょうか。したがって、「私は嘘でできている」という主張は、深刻な自己批判というよりは、面倒くさいと思いながらもつい人助けをしてしまうお人好しな自分への愛情を裏返した表現と言ってもいいかもしれません。

ほのぼのとした、心のあたたまる作品でした。評価は佳作です。

●まるまるさん「大きな心の人になりたい」
まるまるさん、こんにちは。掲示板ではよくお見かけしている方ですが、私が担当させていただくのは初めてですので、感想を書かせていただきます。

自分の感情、特に怒りの衝動をコントロールするのは誰しも苦労することではないでしょうか。この詩はそんな葛藤がリアルに描かれていますね。

具体的な状況設定は職場の人間関係ですね。仕事をしているといろいろな場面で神経にさわる事が起こってきますが、そこで怒りを表に出さないようにいろいろと作戦を練り、試行錯誤する。少しうまくいきかけたと思ったら、また失敗して振り出しに戻る。そんなやるせなさがうまく伝わってきます。

細かい点をコメントさせていただきますと、終連の最後の1行は不要ではないかと思います。大きな心の人になりたいというテーマは全編に関わるものであって、悪口の問題だけに限定されるものではないからです。また、タイトルはあまりにもストレートですので、もう少し含みのあるものを考えると良いのではないかと思いました。

全体的に、語り手の細やかな心の動きが丁寧に描かれていて好感が持てました。特に2回出てくる「たぶん」がうまく使われていると思います。またのご投稿をお待ちしています。

    *     *     *

以上、3作でした。今回も味わい深い詩との出会いを感謝します。気がつくと今年もあと1ヶ月少し。寒暖差が激しい毎日ですので(少なくとも私の居住地では)、皆さまお身体をお大事にお過ごしください。

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