追憶 静間安夫
薄曇りの
すっきりしない
五月の空が
かえって
物思う心にも
昔の夢にも
居場所を残してやっている
晩秋かと思わせるほど
乏しい やわらかい日差しが
ひととき
西洋風の客間にほのかな陰影を投げかけ
古風なピアノが
いっそう典雅な趣きを帯びて
シャンデリアの下に
佇んでいる
そこに浮かび上がるのは
在りし日の貴女の面影
象牙の鍵盤の上をたゆたう
貴女の優雅な指が
あの懐かしい旋律を奏でている…
…と見えたのも、つかの間
初夏のまぶしい日差しがよみがえり
出窓から容赦なく降り注ぎ
部屋の中を露わに照らし出す
そのとたん
愛らしいまぼろしも
甘やかな旋律も
はかない追憶も
雲のようにちぎれ
霧のように消え去ってしまった
ただ残るのは
いずこからか漂ってくる
ローズマリーの香りだけ
※初めて投稿致します。どうかよろしくお願い致します。