妖精チチドとオシアニ 上田一眞
夜のとばりに包まれて
白き石柱が林立する
カレンフェルトの草の海に
月が上がる
芒の花穂(かすい)に支えられた秋の月
まあるい月は闇を照らす
草原の中にぽつりとある
スダジイの森
この小さな森には
往古より
妖精チチドとオシアニが棲んでいる
細かな月の光の粒子が
あまねく降り注ぐ
満月の夜に
二人の妖精は目醒める
そして訪う人に
優しく頬ずりをして
こころの淵に潜り込む
人のこころの裡に棲む
〈悪意〉を食べてしまう二人の妖精
チチドとオシアニ
その姿は
夢を喰らって 花の香りの糞をする
更紗模様の貘のようだ
二人の妖精から薫る心地よい香りに
さやかな眠りを願って
委ねよう
ぼくの睡眠とこころの安寧を…
チチドとオシアニは〈孤独〉をも食べる
美しい月の光の化身だ
満天の星々が月の光と調和して
ますます
その美しさを増幅し未明の空に輝く頃
光に押された
妖精チチドとオシアニは
静かに月面へ昇華する