感想と評 12/1~12/4 ご投稿分 三浦志郎 12/10
お先に失礼致します。
1 荒木章太郎さん 「見えない軍隊」 12/1 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。初連・2連は不条理にして荒唐無稽な詩行ですが、どこかユーモアを含んだインパクトはあると思います。3連は解釈的には「遠い国の戦争を対岸で見ている私たち」のようなニュアンスが感じられました。現実に行われている戦争を風刺風に反戦した、
そんな雰囲気を感じました。真意はよくわかりません。また書いてみてください。
2 上田一眞さん 「法廷・暗きもの」 12/2
特に詳しく調べたわけではありませんが、これはある物質の有害性にまつわる裁判と思われます。
長年その物質と関りを持つ環境に身を置き、発症したり死亡した人々の補償をめぐるものと思われます。具体的名称を書くと支障があるでしょう。伏せます。あくまで詩という文学範疇ということで。ところで、以前の戦記詩と比べると本作は詩的純度ははるかに高いのです。前者は作者の体験がない、いきおい聞き書き的事実羅列に終始した。ところが本作は違います。濃厚に上田さんが入っています。入っているどころではなく当事者、しかも訴えられる側に立たされます。そこに生じる板挟み。すなわち文中「被害者を救いたいという気持ち/会社を守らねばならないという立場」――詩の心情又は葛藤はこれに尽きるわけです。構図として,
「*会社人=公人VS私人」と置き換えてもいい。およそ利害関係のない一市民は個人を擁護し企業を糾弾しがちですが、このケースのように、企業の当事者、ましてや経営陣でありステークホルダーがある以上、この詩のこの立場はむしろ自然と言えます。しかし人間である以上上記の構図はちらつくわけです。そのあたりの苦渋を、この詩は浮き彫りにさせます。その心情の動きに、今回、詩としての価値基準を置きたいと思います。筆致も臨場感を備え、迫力、手に汗握るものを感じました。政治性、裁判に伴う専門性をできるだけセーブして、詩という文学範疇に納めているのも詩の真性を高めているでしょう。これは佳作を。
*「会社人=公人」は議論のあるところだが、構図的にわかりやすくするため、便宜上このようにした。
3 えんじぇるさん 「CHANGES」 12/2
ごめんなさい。わかりません。お手上げです。でも何かコメントしなければ(汗、涙)。
こういった詩の場合、僕の場合はタイトルを唯一の手掛かりにするしかありません。テーマは変わっていくこと。幸い終連がそうなっています。では中身はどうなのか?前半で感じるのは、余分なものを全て削ぎ落した結果出来た自分という自我。案外、この人は自意識が強いのかもしれない。それが強いからこそ、余計、対岸にいる人々が気になってくる。影響を受けて変わっていってしまう。全くの推測です。これは評価は保留させてください。
4 妻咲邦香さん 「まめばたけ」 12/2
はて? これは変化球で来たか?バリエーションの一環か?この詩を出してきた、その思惑が、かえって楽しいような、怖いような、そんな気分です。そういう思惑抜きで、純粋的、額面的に読むと、これは裏も表もなく、この通りでしょう。冒頭2行目などは、男どもと言えど、どこか可愛らしいです。3連4行目も同様でしょう。作品ムードから言って、漢字がひとつもなく、ひらがな・かたかなにしたのも、意図して合わせたものでしょう。でんしゃの降り方「パンッ」がおもしろい。タイトルはどこから来たんでしょうね。陽気な謎として残ります。それとも、このかいしゃいんたちがタイトルの比喩か?それはないと思うんですが……。
すいませんが、この評価は保留させてください。
5 エイジさん 「大航海」 12/3
寝る時は比較的、静かに寝るのが普通なんですが、これは勇気りんりん、勇ましく眠りに就くといっった感じがかえって面白いんです。初連の比喩は(なるほど)といった部分があります。2~3連の動作も同様で、3連はオノマトペあり、リズムあり、で心地よいですよ。ただし、この陽気さは4連目にある「心配事があるそんな夜は/すべて忘れて無心になって」に微妙に影響を受けての反作用かもしれない。その意味で上記フレーズは記憶しておいていいかもしれない。なかなか面白い寝方ではあるわけです。比喩法はいつものエイジさんと比べると、ややベタで“いかにも感”がありそうです。佳作半歩前で。
6 理蝶さん 「詩的宇宙旅行」 12/3
冒頭佳作ですね。奇想天外!楽しくもうるわしいファンタジーです。
月へ――。自ら地球からの詩の伝道師たらんとする。かといって偉そうな感じは全然ないですね。
しかも、月からも教えを受けようとしている。思えば、地球人は古来より月から詩的ヒント、詩的エナジーを存分に授かったという歴史があります。もちろん、他のことも……。そんな返礼的な意味合いも含まれるのかもしれません。
「僕は月に文学を植える」――これは、これは、全くユニークで壮大なフレーズです。めったにない。
このファンタジーならではのもの。そして、この詩を代表するものにもなり得るでしょう。この言葉以降の詩行の考え方も大変素晴らしいです。
7 ベルさん 「十二月」 12/4
シチュー、コーヒー、お酒、お菓子、住宅、何でもいいのですが、街の表情、帰宅の風景がCMなどで取り上げられますが、ほのぼのとして質のいいCMとはそれ自体映像詩のようなものでしょう。この詩はそんな一瞬を感じさせるということです。「クリスマス~サンタクロース」――今の時節は特にそうです。タイムリーですね。それに3連の群像は粋ですね。人々のこころ模様を描き、やっぱり本論は最終連であるわけです。
これは性別問わず読める。年齢は若め。読み手の想像しだいですが、僕は新婚夫婦をイメージしましたね。最後に、これは“お好みで”になりますが、最後はもそっとソフト&マイルドのほうがいいかもです。 ケーキのように甘め佳作を。
8 積 緋露雪さん 「痩せ我慢」 12/4
「人はパンのみにて生きるものにあらず」――“当たらずとも遠からず”の感覚で、この格言を援用し、本作を考えたいと思います。前半は詩的誇張があるでしょうが、積さんの精神に、こういったエッセンスはあるのでしょう。さながら、「パン」と「それ以外の高尚なもの」との相克です。これらは後に出て来る「日常」の姿の一端でもあるでしょう。それ以降、日常がスポットされます。それは嘲弄するもの、不合理なもの。しかし盾にも防波堤にもなるもの。昔のCMコピーを借りると「このくだらなくもすばらしいもの」――その表裏一帯を積さんは生き抜いていきます。しかし、それだけで終わらせないのが積さんの本領。冒頭格言をもう1枚ひっくり返す。日常をもう1枚ひっくり返す。すなわち「瘦せ我慢」という仮面人格を使って、世界を狙撃する、反逆する、復讐する。痩せ我慢とはこの場合、雌伏と同義かもしれない。この詩のフィーリングとして各種英語の形容詞が浮かびます。いわくニヒル、シニカル、アヴァンギャルド。この詩が狼煙となって、生を、世界を、知的に、詩的に反逆する日がやがてやって来るか?
佳作とします。
9 静間安夫さん 「追憶」 12/4 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。
お名前をそのまま詩化したような詩の佇まいです。正統派ド真ん中。ひたすら優美。どこか西欧の詩を読んでる気分にさせてくれます。うっとりしてしまいます。後半浮かび上がるのは、今は非在の人への追憶と思慕です。ここが最も言いたいところでしょう。
これだけ美しいとかえって平板とか、作られたものとか、ガラス細工のような危うさも伴うものなんでしょうが、ともかく初登場。表現だけでなく、文節、連分け等、構成もいいですね。基本、書けていれば、後はいかようにもなろうというもの。また書いてみてください。
評のおわりに。
先日、小山正孝(故人)という詩人にまつわる場所での合評会に行ってきました。
5人の詩人が各作品を持ち寄り朗読し、意見を述べ合うというものです。
ホント、評されるというのはドキドキものでありますね。音楽で言うと、一発セッションに
行ったようなもの。エッ、僕の詩がどう評価されたかって?それはナイショ! では、また。