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スレッドNo.314

夕立  秋さやか

あらゆるひとびとの
あらゆる首を濡らしてゆく

変声期の
すこし喉仏の張り出た首も

消えかけた地図のような
静脈の浮かぶ手首も

崩れそうな肉体を
いっしんに支える足首も

嬰児に与えるための
ミルク臭い乳首さえも

夕立が
容赦なく濡らしてゆく

無防備に
息づいている私たちを
咎めるように

呼吸も
うまくできない私たちを
憐れむように

こんなにも平等に
私たちは濡れているのに

乾いていく早さが違うから
こんなにも
独りなのだろうか

いっせいに俯いて
守るべきものを守り
帰るべき場所を目指し

遠ざかるひとびと

一瞬の迷いに揺らぐ視線は
打ちつけられて
わたしはもう動けない

足元にできる水溜りを
ただ見つめる

寂しい水槽を見下ろすように

歪む水面へ
激しい雨音は吸い込まれ
底の青さから聴こえてくる
お囃子の音

あの夏の
青く寂しい水槽のなかを
とめどなく巡っていた
小さな運命

光をすり抜けて
掬われなかった金魚は
どこへいっただろう

何も違いはなかったはずなのに
ただ薄っぺらい和紙が
濡れすぎただけ

打ちつける雨粒の
わずかな痛みから
逃げるように泳ぐ
金魚が見えた

気がしたけれど
あれは幼な子の真っ赤な兵児帯
雲間からさす光のほうへ
遠ざかる

いつのまにか夕立は止み
あたりは祭りあとのような
静けさに包まれていて

薄日に輝く
あの人の濡れた屋根が
わたしの帰るべき場所なのだと
ようやく思い出す






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齋藤様への投稿二度目になります。意図したわけではないのですがまた雨の詩になってしまいました。

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