老女 晶子
寒空に翼を広げた白い鳥を
思わず見つめたこの目をお返しします
金色の葉の舞い散る音を聞いたこの耳も
青草の道を走ることが出来た足も
年老いて一つ
また一つ出来なくなることが
天から与えられたものを返すだけのことならば
この地上に咲き誇る花の色と
吹く風の中の香りと
生き物の温かさと
誰かに呼びかける笛の音と
水の甘さを知った私の身を
失うのではなく
奪われるのでもなく
天にお返しいたします
でも
最期の時には
思いだけは
天にはあげない
愛しいあなたと出会った地上へ
愛しい地上へ
舞う花の中に
降る雨の中に
永遠にと祈り続けるために