時 エイジ
時が
一秒一秒刻みながら
空から降りて来る
果てしない階段が
宙(そら)の彼方から
降りては刻みやって来る
スキタイ文明の
彫刻のように精密に
空を傷つけながら
一段一段と降りて来る
まるでダリの絵画のよう
非現実的
今見ているものは
夢ではないのか
見ているのは僕だけなのか
やがてガラ*が空に描かれて
彼女は時と一緒に下ってくる
彼をエスコートして
優美に階段を下りる
ガラはいかにも満足げ
どこからか
ゴールドベルぐ変奏曲の
アリアが聴こえてくる
いささかゆったりとしたタッチで
聴こえるのは僕だけだろうか
やがて二人は地上に降り立ち
今度は地を刻んで歩き続ける
時はガラに十字架を授け
前へ前へと僕の方に
歩み寄って来る
彼女が纏っているのか
ミス・ディオールの
パルファムの香りに
辺りは包まれる
不気味なほどに静かで
滑らかな足取りで
時とガラは
僕の身体をすり抜けた
「あなた、永遠を見たわね」
*ガラ:ガラ・エリュアール・ダリは、詩人ポール・エリュアールの元妻であり、のち画家サルバドール・ダリの妻でガラ・ダリ・デ・プブル侯爵夫人。ダリの絵画のミューズとして彼の絵画に登場する。