チョウゲンボウの秋 上田一眞
澄みきった空を翔け 風を切る
鳥影
晩秋の頃
決まって柿の木に飛んで来る
鳩より少し大きい
鳥がいる
隼の仲間でありながら
優雅なホバリング
ドローンのように空中で静止して
畑のモグラを狙う チョウゲンボウ
キッキッキ と啼いて
高枝にとまる狩りの名手
いつもこの季節
妹を背負って探し歩く兄
幼い妹は広い兄の背中に負ぶさって
お兄ちゃん
鳥さん おらんねぇ
茶色い羽根の鳥さん
どこに行ったの?
何度も何度も
繰り返し
聞く
猛禽類の好きな兄は
飽きることなく
長く伸び始めた自分の影を踏みながら
畑の周囲を見渡す
早く見つけなきゃ日が暮れると
少々焦りぎみ
鳥さんやぁ〜い
鳥さんやぁ〜い
二人の掛声が縺れあう
妹は遠くにいる鳥の姿を見い出すと
小さな可愛い顔を綻ばせて
喜ぶ
そして
満ち足りたのか
兄の背中で
すやすや 寝息をたてて眠ってしまう
疲れたんじゃのぅ
ごめんよ
静かで
豊かな時が流れ
背中から脳髄へ伝わる幼い妹の温もりが
ふんわりと柔らかく
愛おしい
起こさぬように気をつけて
ゆっくりと歩く
それを見たのかチョウゲンボウが
柿の木の上でキキキキキ と
高笑いする
やがて
鳥の影も長くなって頭上に落ちてくる
秋の落陽が赤く空を染め
ひんやり冷気の漂う
愁いの晩秋だが
そこは
ホコホコとした
命の温もりに溢れている