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スレッドNo.3188

チョウゲンボウの秋  上田一眞

澄みきった空を翔け 風を切る
鳥影
晩秋の頃
決まって柿の木に飛んで来る
鳩より少し大きい
鳥がいる

隼の仲間でありながら
優雅なホバリング
ドローンのように空中で静止して
畑のモグラを狙う チョウゲンボウ
キッキッキ と啼いて
高枝にとまる狩りの名手

いつもこの季節
妹を背負って探し歩く兄
幼い妹は広い兄の背中に負ぶさって

  お兄ちゃん
  鳥さん おらんねぇ
  茶色い羽根の鳥さん
  どこに行ったの?

何度も何度も
繰り返し
聞く

猛禽類の好きな兄は
飽きることなく
長く伸び始めた自分の影を踏みながら
畑の周囲を見渡す
早く見つけなきゃ日が暮れると
少々焦りぎみ

 鳥さんやぁ〜い
  鳥さんやぁ〜い

二人の掛声が縺れあう
妹は遠くにいる鳥の姿を見い出すと
小さな可愛い顔を綻ばせて
喜ぶ
そして
満ち足りたのか
兄の背中で
すやすや 寝息をたてて眠ってしまう

 疲れたんじゃのぅ
 ごめんよ

静かで
豊かな時が流れ
背中から脳髄へ伝わる幼い妹の温もりが
ふんわりと柔らかく
愛おしい

起こさぬように気をつけて
ゆっくりと歩く
それを見たのかチョウゲンボウが
柿の木の上でキキキキキ と
高笑いする

やがて
鳥の影も長くなって頭上に落ちてくる

秋の落陽が赤く空を染め
ひんやり冷気の漂う
愁いの晩秋だが
そこは
ホコホコとした
命の温もりに溢れている

編集・削除(編集済: 2024年08月24日 18:20)

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