踊り場の窓から 朝霧綾め
一階から二階に行く
階段の踊り場
窓から顔を出すと
しめった風が吹いていた
風は私の髪を揺らして
頬を撫でた
雨の匂いを運んで
首筋をくすぐった
なぜかなつかしさを
感じさせる風だった
私の耳もとを通り抜けるとき
風がささやいた
久しぶりですね
私ははっと気がついて
手をのばした
けれどその前に
ひとすじの風は 消え去ってしまった
ああそうだ
私はこの風に
昔出会っていた
こんな雨上がり
ひとりで踊り場に立っていたとき
寂しくないのに寂しい気持ちだった
やることは多いけど退屈だから
窓から顔を出し
外に目をやっていた
今より少し
幼かった私を
あの風は知っている
意味もなくふさぎこんでいた私を
友だちの作り方さえ
よく知らなかった私を
ちょっと 照れくさい
そしてただ
なつかしい
久しぶりですよ
私は静かに呟いた
あたたかいかすかな吐息が
しめった外の空気にとけていった