アガパンサスー恋の訪れ Liszt
七月の夕方
うだるような暑さと外回りの仕事で
すっかり疲れて汗だくなのに
気分は爽やか
ほっこりとして明るい
なぜって
いつもの駅からの帰り道
ふと見つけたから…
可憐な薄紫の花を
生垣の向こう
とある古風な家の
こぢんまりとした花壇から
そっと わたしを見つめているような気がして
思わず振り向いたのだ
何という名前の花だろう?
軽やかで繊細
その姿は まるで貴婦人
小さなユリのような花が
たくさん集まって
てのひらから こぼれるように咲いている
夜空を彩る流星雨が
待ちきれずに現れたのだろうか?
美しい咲き姿に
不思議な予感を覚えながら
ひとり暮らしのアパートに帰ってみれば
ドアが開いていて
玄関には見慣れない日傘とサンダル
開け放たれた窓
カーテンが風にそよいでる
夕日がまぶしいくらいに
差し込んでるのに
部屋の空気は涼しく
仄かな香りが漂っている…
留守の間に
誰か来たはずなのに…そして
室内を小ぎれいに整えてくれたのに
もうそのひとの姿はない
わたしにできることは
久方ぶりに心のノートを開き
忘れていた詩句を見つけ出し
降り注ぐ透明な光の織物に
書きとめること
薄紫のパラソルをさし
星をちりばめたサンダルをはいた
まだ見ぬひとの面影を
―花の化身の絵姿を
訪れは
とつぜんやってくる
ほんのわずかな間だけ…
儚いけれど
確かな反響を残して
齋藤純二様
いつも私の詩に丁寧なご感想を頂き、誠に有難うございます。
上の詩は最寄り駅に行く途中、よく目にするアガパンサスの花を
見ているうちに思い浮かんだのですが、散文の形で書くと、
何か不自然な感じになってしまって…。
「季節の花」のテーマはずっと散文で書いてきたので、「締め」も
散文で書くべきか迷ったのですが、結局、行分け詩のままにしました。
お目を通して頂ければ幸いです。Liszt