手負いの夜に 妻咲邦香
今宵の月
紅い月よ
貴方みたいに
怖れられて暮らせたら
怪我をしているようでも
出血さえもしているようでも
傷付けられたとは限らず
傷付けたのかもしれなくて
誰かを激しく憎む目で
森の陰にその身を落とす
許さないぞと呻きながら
お前なんか
お前なんか
絶対に許さないぞと
呟きながらも
睨み付けながらも
隠れてしまう
仕方がない
時間切れなのだ
今日はもう
さぞかし悔しかろう
紅い月よ
いつもより少しだけ大きくて
痛々しい月よ
お望み通り
私は怖れているよ
貴方のことを
怖れているよ
すぐに優しい顔になる
いつの間にか許してしまう
そんな貴方のことが私はね
怖いんだよ
無傷でいられてしまうことが
この上なく
痛いんだよ