砂時計 荒木章太郎
生活を区切る水平線
破られた日常の境界線
汚れた影を飲み込んだ海
太陽の光で灰色に擦り替える
遠く見えるタンカーの群れは
止まっているようにみたいだけだ
それぞれの海から
運び出された物資を
非日常の先端へと
平等に届けられることなど
空想の域を出ない
現実感を見失わないように
僕は毎朝砂浜を走っていた
かつて実験都市として作られた交差点
今は先端に追い抜かされ寂れていた
立ち止まる訳にもいかず
信号を無視し続けていた
カモメ一羽いない砂浜で
カラス達が
波と共に押し寄せてくる
哀しみで光るガラスやら
コンクリートの破片やらで
圧力をかけて啼いていた
こちらではいつもと
変わらぬ波音に聞こえる
変わり果てた君の姿に
幼き頃書き留めておいた
面影を重ねた
ふるさとは場所ではない
決して戻ることのない時の流れ
打ち寄せる砂を
拾い集めて砂時計にした
毎朝カップスープを作るのに使っている
いつだって実用的だ
亡き母のように日常を作り上げている
道理で理不尽な悲劇に足をすくわれて
ハナレバナレになった
家族といふうつわを取り戻すために
毎朝祈りながらこの砂時計を使っている