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スレッドNo.3274

大樹  秋さやか

静止画のような雨の朝

深碧に滲む世界

その中心に
一本の大樹がある

冷たい雨粒を受けとめて
微かに震える

一枚の葉は

一つの国かもしれない
一軒の家かもしれない
一個のわたしかもしれない

向こうの枝で揺れているのは
あなたかもしれない

かつては
小さな一本の双葉だった
わたしたち いま
どうしてこんなに遠いのだろう

鳥が囁く
鳥が囁かない

虫が来る
虫が来ない

光があたる
光があたらない

時が流れる早ささえ きっと

パタ
パタ
パタ

ヘリコプターのプロペラ音が
のどかに響く昼の空

太く張られた根元から
今朝の雨を静かに吸いあげる

それぞれが違う形をした葉脈は
それぞれの月の色へと透けてゆく
互いの遠さを見つめながら

同じ雨に満たされて

病葉のざりりとした穴の向こうで
陽が沈む

重たげな雲を
光で縁取りがら沈んでゆく

その残光を閉じこめて
どろりと滲む樹液
これはいったい誰の傷だろう

誰かの傷を
痛いと感じる不思議

時の重さに
揺れる
すべての葉はゆりかご

ささめく寝息がいつか
ひとつに重なるときを待って
待ちつづけて

諦めのように散り
希望のように芽吹く

繰り返される
命の満ち引き

樹洞のなかへ
さみしい風を眠らせて

降りくる夜のとばり
よりも濃く深い大樹の影に
包み込みこまれた地上で

いつか
あなたとわたしは溶けあう
わたしたちは溶けあう

無数の星々だけが
青く目醒めている夜に

編集・削除(編集済: 2024年01月05日 10:19)

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