市 妻咲邦香
週の終わりの日曜日
麓の広場に突如と市が現れる
それは歩いてやって来る
かつての愛の燃えかすが
今日ばかりはよそ行き服で
ひしめくシートの皺の上
すまして正座してやがる
先割れスプーンにバターナイフ
端が欠けてちゃ即半額だ
着れなくなったブラウスに
懸賞で当てたハンカチーフ
子犬の首輪に耳飾り
挙句にキャットフードまで
お婆ちゃんの形見の箪笥
そこの硯はアンティークだよ
掘り出しもんは少し高いが
本当の価値は私が作る
弾いて語るはジブリのメドレー
カーペンターズにあいみょんか
手作りお菓子にサンドイッチ
採れたて野菜は無農薬だよ
有名作家はエッセイばかり
知らない作家はサイン本
茶碗に箸にビーチサンダル
ええいこうなったら持ってけ泥棒
骨の髄までしゃぶりやがれ
何処から夢で何処から現つか
わかりゃしないのは人とて同じ
懺悔もそこそこ宴も酣
出自自慢もビールの泡だ
そこへ突然、身なりの良い老紳士
物静かに覗き込む
まからぬか?と聞いたそばから
奥様らしき御婦人登場
慌てて手を引きいづこへと
戻らぬ色も新たな光沢手に入れて
また塗り重ねし歴史の下に
私は聞き耳を立てる
もの言わぬ声を聞いている
誰も背景になどなりたくないのだ
ではそなたは一体何と名付けられたいか
鍋敷きか、革のポーチか、高枝バサミか
数多の我楽多が我先にと急ぐ
己の運命を急いでいる
後ろで主は呑気に珈琲を飲んでいる
週を繋ぐは日曜日
変わらぬ顔ぶれ、いつもの広場に
それ等は歩いてやって来る
二本の足でやって来る
これは珍しい品種だよ
地元でしかお目にかかれないよ
姪っ子はほんに手先が器用で
まだ売れぬかや
いや先週とは色違いだ
昨夜の弔いがいと優しき色彩帯びて
出囃子はビートルズかスピッツか
さて今日は晴れ間だ
どうぞゆっくりご覧ください
欲しいものはありますでしょうか?
ありません
ありませんけど
決めました
己の足で歩いて行こうと
たった今