感想と評 12/29~2024・1/1 ご投稿分 三浦志郎 1/10
お先に失礼致します。
1 上田一眞さん 「ある日系人の苦闘」
新年飾る冒頭佳作にして大作。新年早々、ガッチリと骨のある作品です。時制と背景がふたつありますね。ひとつは日本を訪れ「ぼく」を含む一家との触れ合い。ふたつは戦中~戦後の生き方です。これらは物語に立体性を与えているし、その中を物語が自然に流れていきます。いいですね。戦中は普通の日本人でさえ大変だったのに、日系人といった背景を背負わされた人々は、この詩が語るように塗炭の苦しみだったことがわかります。人権の危機、迫られる決断、名誉回復・忠誠の証しとしての出征、そして夥しい死です。細部を見ましょう。当時のアメリカの兵役は18歳からですので、シミズさんはそれ以下だったことがわかります。日系人中心の442部隊史によると1943年(昭和18年)頃のことでしょう。彼らは本当に精強に戦ったようです。崖っぷちに立たされ、肝が据わった集団だったのでしょう。ここにもあるように、多くの戦死者を出したようです。シミズさんの兄上もその一人。胸が痛みます。アメリカで最も多くの勲章を受けた軍団だったのが、せめてもの慰めでしょうか。戦中は精神的な、戦後は肉体的な苦労が偲ばれます。戦後も辛苦が多かったのですが、それをカラリとわかりやすく語るシミズさんも印象深い、きっと、揉まれに揉まれて魅力的な人格に行き着いた、そんな雰囲気がありそうです。「パールハーバーを忘れるな」や「昭和四十年代」などから、この詩は時間の流れが年表のように自然とわかる仕組みも取っている。人物の年齢もだいたい推測可能です。それも隠れた魅力なのです。
地味ながら物語詩には必須なことです。この詩の中に、ちゃんと上田さんもいます。この詩の中で歴史は生きています。
アフターアワーズ。
僕流に言わせてもらうと、これは長州人の持つ粘り強さのような気がしますネ。
2 素言さん 「こんなときは眠るに限る」 初めてのかたなので、今回は感想のみ書かせて頂きます。
よろしくお願い致します。
俗に「フテ寝する」という言葉がありますが、いじけて開き直って、世間に背を向けるように寝てしまうのか、それとも“自分を安全に保ち事態をやり過ごす積極的手段として”寝るのか?この眠りの落差は大きいものがあります。そのあたりを検証できる本文かどうか?そんな視点で読んでいました。「こんなとき」の実態が本文のはずです。初連から3連までは曖昧で解釈上の解決策にはならないように思います。頼みの綱は4連か?やや具体性を暗示しているように思います。
ここには事態をなんとか打開したい向きが感じられなくもない。そう考えると、冒頭の二択は後者のほうに思えたりするわけです。ごめんなさい、これ以上のことはわかりませんでした。様子を見ましょう。また書いてみてください。
3 静間安夫さん 「見ないで信じる人こそ…」
新年早々、意表を衝いたところから来ました。意外や、散文詩形体の、それもセリフ詩です。
まず設定がおもしろいです。イエスの神聖と場末で下世話な酒場での品のない話しぶり。
この落差ですね。ストーリーはとてもわかりやすいです。この詩の本質は終わり近くの酒場の主人のセリフにありそうですね。すなわち「確かめて初めて信じる≦理屈じゃなくこころで信じる」でしょう。タイトルにもなっている「見ないで信じる人こそ幸せ~」、これはおよそ宗教の一般論的本質でしょう。最後のオチ的謎かけがいいですね。おそらく酒場主人に身をやつして、イエスはこの男に会いに来たのでしょう。そうして大事な考え方を示唆していった。そんな解釈です。ただし、ここに一点、気になることがあって、「見ないで信じる」を過度に奉じてしまうと、以前の会っていた状況をどう評価するのか?といった問題が生じてしまうわけです。「それはそれで、なお結構」なのか。「見ないで~」理論は会えなかったことへの便法理論あるいは慰め理論でもいいのですが。このあたり、やや微妙な雰囲気はあるわけです。
いきなりのスタイル変更で、当方少し戸惑っていますが、前回もキリスト教的要素があったことに気づきました。静間さんの何らかの属性を示すものではあるのでしょう。佳作半歩前で。
4 水野耕助さん 「飛びたい、私」
ああ、同感ですね、飛びたい、僕もです。もちろん、これは隠喩なのですが、これを日常形而下に降ろしてくると、、あてはまることは多い。事に当たってアプローチを変えてみる。ワンランク上を目指してみる。気高く生きていきたい。やっぱり人間は上昇志向といった本能はあるわけです。これはそんな詩。さてところで、飛ぶにもいろいろあるわけですが、この詩に沿って、その様態を拡大解釈してみると、……
1、2連……自己存在の飛翔。 3、4連……現状脱却。 5、6連……世界の広がり。
いっぽうで考えられるのは―最近よく思うのですが―「終わらせるのは始めるのと同等か、それ以上に難しい(特に戦争など)」といったことで、この詩で言うと「じゃあ、飛んだ後、どうするの?」といったことでしょうか。別にその後を書く必要もないのですが。ただ、この詩はそれもちゃんと用意しているのです。すなわち終連です。構図から見ても思想から見ても、この詩には終連という受け皿があることです。抽象的で全然構わない。終連に向けこの詩は収斂していきます。あとは”今よりもっと高い純度で“詩を飛ばすことです。詩も飛びたい。佳作飛翔一歩前で。THE LAST STEP。
5 エイジさん 「時間」
日常、物質として目に見えないものを考えると、すぐに浮かぶのは空気と風。この詩にある通り、時間もそうでしょう。なるほど、時計がありますが、あれは時間という現象の代理器具、代理行為でしょう。いっぽうで、エイジさんは「詩人~見えないものを見る」といった考え方を深めようとする詩人です。そんな背景からこの詩は生まれたと僕は認識しております。時間がくっきりと形として捉えられ全てを覆い尽くすさまが明らかです。サンプルとしての場所、事物もよく考えられ、直喩も活きています。「占拠VS装飾」の対比も面白い。結果、ちょっと不思議感のある詩になって、最後の広がりに続いていきます。これ読んでると、ホント、実際に時間が(物質的に)世界を覆い始めるのを感じるのです。SF映画を観るように―。時間をこのように把握するのはユニーク。このサイズにしては充分に初期目的を果たしているでしょう。これ、コレクションで上位に入る気がする。もちろん佳作です。
6 大杉 司さん 「年の瀬」
はい、これは前作よりもおもしろく読めました。前半はもう実感ですよね。「トイレまでも渋滞だ」が笑えますね。今日で一年が終わるというソワソワ感、ザワザワ感。そういった忙しなさの中にも、不思議と一年を振り返る感慨も入って来て。あの、えも言えない感覚が僕は好きですし、大杉さんもそうでしょう。この詩にもそれがあります。まさに詩の通り「今日は特別」です。後半「物騒な事件~」以降がやっぱりいいですね。自分の中に生まれる振り返りと期待ですね。具体的には終わりの3連部分でしょう。 ところが明けたら災害で始まってしまいました。
しかし、大杉さんが描写した時点では、正しい風景、正しい考えであったわけです。佳作を。
7 ベルさん 「始発電車」
恐縮ながら私事を。ある職種の関係で、4年間、始発電車に乗っていました(会う人が殆ど一緒 笑)。
この詩を読むと思い出と共感が沸き上がって来るんですよね。ホント、この通りですよ。
この詩はやっぱり4連ですよねー。失礼ながら書くと、3連までは―詩を書く人なら―だいたい書けちゃうんです。4連こそがベルさんのオリジナル!特に3~6行ですね。ここですよ。俯瞰的に観ると、けっこう姿も良く、内容も端正にまとめているのが理解されるのです。
早朝の風景が主で、始発電車は従に置かれていますが、タイトルを始発電車にした。これぞ、詩のタイトルのありようと思うわけです。佳作を。
アフターアワーズ。
「ちょっと得した気分の夜明け前」―詩行にありますが、これは全くもって事実です。
アドバンテージです。その分、夜は早く寝るんですがね。 21:00!
8 妻咲邦香さん 「手負いの夜に」
月は時にオレンジ色と化して、不気味さや悪い予感を感じたりすることがあります。
どっちにしろ、少し落ち着かない気分になります。そういった部分がこの詩。いつもと違う色を「手負い」と感じた夜です。そんな風に理解してます。どう落ち着かないのか?この詩に即して言えば「愛と憎」。その二律背反(アンビバレンツ)にあると考えます。主人公は月と相対で語りかける。そこには上記、異なり相反する感慨が含まれる。思想的な詩なんですが、3連では意外と情景が映像的に浮かんで来る。シーンと静まった森と月です。そんな中でも人物と月のせめぎ合いはたえず続いている。抒情的ながら、ある種、緊張関係にもある詩です。これは思想的正負において巧緻な作品でしょう。そこを見つめての佳作です。
評のおわりに。
新年の挨拶を逸しましたが、今年初めての評なので、「今年もよろしくお願い致します」
元旦からの災害。地震・飛行機事故。多難な年の予感を感じた人も多いでしょう。
そうならないことを祈るのみです。
地震で亡くなられたかた、心からお悔やみ申し上げます。
被災されたかた、心からお見舞い申し上げます。
阪神・淡路大震災のあった日も近い。
今の僕にできること―ささやかながら募金を、
自分が遭った時の為に―物資と文書の確認を。 では、また。
「インターセプター」
さあ みんな
もう戦争は“しまい”だ
さっさと片付けて
家(うち)へ帰るんだ
誰か一人くらい
待ってる人がいるだろう
何処へ落ちても
何処へ降りても
ここはおまえの邦(くに)なのさ
LONG WAY HOME?
いや 遠くない!
家路はすぐ隣じゃないか
何処へ落ちても
何処へ降りても
ここはおまえの故郷(ふるさと)さ
さっさと片付けて
ベッドと仲良く
女と仲良く
眠っちまうのがいいだろう
さあ みんな
もう戦争は“しまい”だ