雨の焼きそば屋 小林大鬼
五月一日祖母が亡くなった
母から聞いたのは雨の水海道駅
電話が切れて呆然と五月雨を眺めた後
私は携帯で探しながら店に向かっていた
駅から離れて寂れた商店街を通り
狭い裏通りに古ぼけた焼きそば屋があった
扉を開けたが誰もいない
すいませんと何度も呼んでも誰も出ない
奥から話し声がする硝子戸を叩くと
ようやくお婆さんが出てくれた
年季の入った小さなやかんから
淹れてくれた出がらしのお茶
時が止まった昭和のままの店内で待つ間
お婆さんは小さな厨房でいつものように作る
昔ながらの焼きそばは目玉焼きと紅生姜
口に広がる懐かしいソースの味わい
この道六十年と口にするお婆さんは
水海道が栄えていた頃の様子を
思い出深く話してくれた
私は話を聞きながら
どこかで祖母の面影を見ていた
二人仲良く炬燵に入る店の老夫婦と
亡き祖父母の記憶を重ねながら
外はまだ冷たい雨が降っていた