カレーライスのうた 荒木章太郎
君と娘が出て行ったのは
俺が玉葱だったから
剥いても剥いても皮ばかり
スプーンを投げてしまったか
今宵は一人カレーを作る
仕事を剥いたら父の顔
父を剥いたら中年男
男を剥いたらマーメイド
鱗を剥いたらマーブルケーキ
持つ子供
頭を剥いたら何もない
何もないのをあるように
大きく魅せた玉ねぎが
西陽を浴びて沈んでゆくよ
今頃涙が目に染みる
微塵に切って炒めれば
十分中身になっただろうに
何もないこと受け入れて
人参、ジャガイモ、豚肉入れて
娘のうたを口ずさみ
君のを混ぜて煮込めば良かった