本の風景 八合目 エイジ
「詩と出会う 詩と生きる」という
胸躍る題名の本を手にしたのは
今から4年前の春のことだった
2020年4月と言えば
あのコロナ禍で
街から人が消えた時期だった
同時に公園からも人が減った
そんな中 呑気に街を
公園をその本を手に
ほっつき歩いては
詩を書いて 詩人を気取っていた
今当時の詩を読んでみると
目を覆いたくなるような
とても初歩的な詩だ
時折ベンチに腰を下ろしては
手にした本を読むのだが
内容は全く頭に入ってこず
右から左へ筒抜けていった
*
それから4年経った今
もう一度その本を手にとってみた
私は本の向こうに見える
穏やかな景色を見渡すような
心持ちだった
食べたものによって
私たちの肉体が形成されていくように、
私たちの心は言葉によって育てられます。
詩とは、過ぎ去るさまざまなものを、
言葉という舟で、
永遠の世界に運ぼうとする試みだといえる
「詩と出会う 詩と生きる」より 若松英輔
とてつもなく素早く
飛ばされる球のようにしか
見えなかった言葉の群れが
右奥になだらかな山々が見えて
里山の街が左に広がっていくというように
本が風景になって見えるかのよう
この本を再び手にして
山の八合目まで
やっと登ってきた感がある
言葉の舟に目をやりながら
再び本の風景に耽溺する
*
若葉の芽吹いた
木々の群れを過ぎると
急な勾配が立ちはだかり
しばらく登ると右に
朽ち果てそうな山小屋が見え
登った先には一面の緑草
初春の
オオイヌノフグリ
見やりながら
ベンチに座って
ほっと一息