予感 小林大鬼
元旦の青天の千葉神社
私には記憶すらない
亡くなった祖父が
毎年初詣に行っていた
それだけである
赤々とした二階建ての本殿の
眩しさに見惚れながら
龍のような行列を並んでいた
参拝にも御守を買うのも
蟻のように並び続けて
敷地内に無数にある
末社摂社を巡っていたら
時間がかかってしまった
正午頃に来たはずなのに
近くで一軒だけ大晦日から
営業中のラーメン屋に入り
大将から正月の神社周辺の
愚痴をいろいろ聞きながら
濃い目の醤油ラーメンを
啜っては腹を満たし
帰りに角の酒場で
甘酒を立ち飲みする
すると客達の携帯から
けたたたましい虫の音のような
地震警報アラームが一斉に鳴り出して
電線や電柱がゆらゆらと
地面とともに揺れ出した
揺れているの?と
酒場で働く少年も
自分に尋ねた
震源地は能登半島付近と
携帯画面が真っ赤になる
嫌な予感しかなかった
関東大震災から百年
卯年から辰年へ
呪われた年月日と数の呪縛
私は思い出した
あの東日本大震災の
立ち上がれなかったあの揺れを
そして能登半島を襲った
火と水と地の大災害と犠牲を
誰も知る由もなかった