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スレッドNo.3395

辻占と約束 紫陽花

小さな商店街の片隅に
やっぱり小さなお寺がある
小さな古いお寺の庭には
小さなブランコと
滑り台 砂場
そこに年老いた黒猫
黒猫には
小さなピンクの
クッションがあてがわれ
眠っていることが多い
その看板黒猫目当てに
幼児から大人まで
みんなが集うお寺

そのお寺の前には
辻占のおじいさん
私が小さい頃から
辻占のおじいさんは
立っている
茶色の着物に茶色の草履
頭にはそれらしい帽子
おじいさんの辻占は有名で
元気のない人に声をかけては
希望を持たせていたらしい

そんなことも忘れるくらい
月日は経って
私は世間のだいたいが
そうであるように
それなりに大人になった
大人って思ったより
生きていくのが難しくて
私にはとても難しくて
恥ずかしいことに
命を捨てようとした日があった

なぜか 私はその時
辻占のおじいさんと
赤い滑り台
春の日の中で
のんびり眠る黒猫を
思い出した
最後にどうしても
見たくなって
私は小さくなって
こそこそと何も悪いことを
してるわけじゃないけど
見つからないように
声をかけられないように
道の端を歩いて
お寺の前を
通り過ぎようとした
ああ もう通り過ぎる
もうこれでいい
そう思って足早に
歩を進める
俯いている私の手を
辻占のおじいさんが
そっと捕まえた
私は泣いてなんかいなかった
でも 辻占のおじいさんは
泣かないでと言っていた
手相を見せてと
言っていた
私はお金を持ってきていない
と伝えた
要らないからと言って
軽く私の手を見て
あなたはこれから必ず
幸せになるから
半年以内に必ず
だからその時
お代を持って占いにおいで
生きてるんだよ
辻占のおじいさんに
私は分かりましたと
言ってしまった
律儀な私は約束を
破れない
だから今もこうやって
生きている

ただ 辻占のおじいさんは
私がもう一度占ってもらう
前にいなくなっていた
だから 私は これからも
時々あのお寺の前を
通ってやっぱり生きていく
幸せだろうがなんだろうが
生きていく
約束をしてしまったから

編集・削除(編集済: 2024年01月25日 21:04)

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