辻占と約束 紫陽花
小さな商店街の片隅に
やっぱり小さなお寺がある
小さな古いお寺の庭には
小さなブランコと
滑り台 砂場
そこに年老いた黒猫
黒猫には
小さなピンクの
クッションがあてがわれ
眠っていることが多い
その看板黒猫目当てに
幼児から大人まで
みんなが集うお寺
そのお寺の前には
辻占のおじいさん
私が小さい頃から
辻占のおじいさんは
立っている
茶色の着物に茶色の草履
頭にはそれらしい帽子
おじいさんの辻占は有名で
元気のない人に声をかけては
希望を持たせていたらしい
そんなことも忘れるくらい
月日は経って
私は世間のだいたいが
そうであるように
それなりに大人になった
大人って思ったより
生きていくのが難しくて
私にはとても難しくて
恥ずかしいことに
命を捨てようとした日があった
なぜか 私はその時
辻占のおじいさんと
赤い滑り台
春の日の中で
のんびり眠る黒猫を
思い出した
最後にどうしても
見たくなって
私は小さくなって
こそこそと何も悪いことを
してるわけじゃないけど
見つからないように
声をかけられないように
道の端を歩いて
お寺の前を
通り過ぎようとした
ああ もう通り過ぎる
もうこれでいい
そう思って足早に
歩を進める
俯いている私の手を
辻占のおじいさんが
そっと捕まえた
私は泣いてなんかいなかった
でも 辻占のおじいさんは
泣かないでと言っていた
手相を見せてと
言っていた
私はお金を持ってきていない
と伝えた
要らないからと言って
軽く私の手を見て
あなたはこれから必ず
幸せになるから
半年以内に必ず
だからその時
お代を持って占いにおいで
生きてるんだよ
辻占のおじいさんに
私は分かりましたと
言ってしまった
律儀な私は約束を
破れない
だから今もこうやって
生きている
ただ 辻占のおじいさんは
私がもう一度占ってもらう
前にいなくなっていた
だから 私は これからも
時々あのお寺の前を
通ってやっぱり生きていく
幸せだろうがなんだろうが
生きていく
約束をしてしまったから