祈りの風船 理蝶
高台から街を見下ろすと
あちこちから風船が
気流に乗って
昇ってゆくのが見える
色とりどりの風船に
拙い字や綺麗な字で
祈りの言葉が
書き留められている
大きいものから小さいものまで
一つとして同じものはない
祈りを捧げた時
人は気づかず
その風船を空に飛ばす
切に願う気持ちが
温かな気流を興し
風船を高く高く空へ
運んでゆく
生憎今日は曇り
曇り空の雲は
空に蓋をして
人が空へ飛ばす
沢山の祈りを遮ってしまう
空の底には
雲でつっかえた
この街の祈りが
ひしめき合っている
この街の祈りが
どうか行くべき場所に
届きますように
僕の頭上から
水色の風船が一つ飛んでいった
ゆっくりと登ってゆき
雲にコツンとぶつかり止まった
急な風が吹いて
雲間がわずかにできた
柔らかな陽がこぼれてくる
みるみるうちに雲間は広がり
空の蓋にぽっかり青い穴が空いた
遮られていた
沢山の風船は
その穴から
高く高く青い空へ昇ってゆく
色とりどりの祈りが
今空に放たれた
さあゆけ 温かな気流に乗って
行くべき場所まで
届くべき人まで
どこまでも
僕が浮かべた水色の風船は
青い穴をくぐったところで
パチンと割れた