土に還る 静間安夫
未来の詩人たちよ。わたしにはやがて君たちが直面する世界を予言できる。
なぜなら、それはわたし自身が経験した歴史でもあったから。
そこではあらゆる瑣末な日常が消え失せ、危険が我が物顔で跋扈していた。
洪水は刻々と迫り、今逃げてきたばかりの向こうの切通しのあたりも、すでに
崩壊と地すべりが起きている。この崖上もやがてのみ込まれる、そう観念して
精神の喫水線が限度に達した人々は、悄然と天上を見上げ、どす黒いインクの
ように広がった雲に問いかけている…究極の思想の鍵をどこに置き忘れてきた
のか?それさえ取り戻せれば、この状況に補助線を引き直し新たな解釈を手に
することができるのに、と。
だが、わたしにはわかっていた。刻一刻と終末の様相を深める世界を前にし
て、そんなものは言葉の戯れに過ぎないことを。いかに秘教めいた難解な哲学
用語を駆使しても、いかに新しい服で装ってみても、その中身は古ぼけた思想
の繰り返しだ。言わば、ごくわずかの人しか辿り着けない遥か彼方の砂浜に、
丹精込めて立て直した白い墓標のようなものだ。古の聖賢を呼び起こし、再び
その遺徳にすがろうとしても、いずれは地球の反対側で起きた大地震によって
もたらされた津波に、墓標もろとも押し流されてしまうだろう。しょせんは
仮初の避難所に過ぎない。
だから、君たちは改めて悟るだろう。永遠の謎は単純なことに宿っていると…
我々が土に還る、という事実に。そして、この事実の本当の意味を解き明かす
ことは、結局いかなる人間の思想にも不可能である。