その手、その温度 理蝶
氷は暗がりの中
時と挫折を閉じ込めて
ずっと待っている
この暗がりに君が訪れるのを
触れて
夜の底を幾度も
通り抜けてきた
その手で
跡をつけて
優しすぎるせいで病んだ
傷だらけになった
その手で
溶かして
君が恥じる
その手 その温度で
君が触れたら
悴む指を忍んで触れたなら
氷は溶け出し
街を抜け出し
海に注ぎ雲となり
いつの日か
懐かしい雨を降らせるから
そしたら君の街にも
懐かしい雨が降って
君が一つしかない傘を
いつものように
誰かにあげてしまった時
空に差し出した手を
傷跡で固く乾いたその手を
懐かしい雨が癒すから
だから
触れて 跡をつけて 溶かして
その手 その温度で