鯨 プラネタリウム
幼い頃の夢は鯨になることだった
とにかく大きくて強い存在になりたかった
少し大人になると夢も育った
みんなを守るヒーローになりたくなった
成長した夢は形を変えた
誰もが舌を巻くすごい奴になりたくなった
大人になった夢は色を失くした
目立たずみんなと同じでありたくなった
嘆きの声を上げる小さな鯨の物語
陸に上がったら息なんてできやしない
歳を重ねるごとに景色が灰色に染まっていく
その筆を持つ誰かの手を止めようと
鯨は唇を噛んで顔を上げた
無邪気な目は黒くなって今を見すえる
もう豊かな海を漂うことはできないし
涙も枯れ果て海は遥か遠くへと流れていった
……これでいいのかもしれない、と
鯨に憧れた小さき者は空を見上げる
勇気を出した夢は苦くて温かい
大切な人の傍に在る小さな存在でいること