かいじゅうと十姉妹のうた 荒木章太郎
かいじゅうの
うたが流行っていた
はるか昔にも違う歌詞で
かいじゅうの
うたが流行っていた
バリケードを作り
闘っていた人達が
まとまってうたっていた
その後懐柔され
十分に研究され
なし崩され
散らばった父母から
僕は十姉妹に生まれた
世間から始末されることを恐れ
野生にもなれず
かいじゅうを夢みていた
やがて空を舞うことを諦め
翼を捨て足を鍛えて
疲れ果てた靴を産む
靴は時代に取り残され
かつて僕が蹲った場所にいた
帰ることのない母が戻るまで
意地になって待ち続けた
未熟な林檎の頬をした少年
アジテートして
ストライキしていた
かいじゅうとは何か
今一つ分かっていない
自分を抱きしめる意味が
今一つ分かっていない
故郷のバス停で
その少年がしゃがみ込んでいた
肩の強ばりは理解できる
黙って抱き締めればよいのか