そうして今はぼんやりとした灰色猫 紫陽花
最初はそれはそれは綺麗な黒い子猫でした
どこもかも真っ黒で舌の色も黒いので
きっとお腹も黒い子猫でした
そして黒い子猫はお母さん猫が大好きでした
お母さん猫はまたそれはそれは
綺麗な立派な黒猫でした
お母さん猫は黒い子猫に
1歩外に出たらみんな敵だ
と毎日言い含めました
黒い子猫は素直だったので
お母さんの言うことを信じました
黒い子猫は学校で優しい先生に
あなたの笑顔はいいから笑って
と言われていました
ただ敵なので黒い子猫は一度も
笑いませんでした
笑わない黒い子猫にクラスメイトも
気味悪がって近づきませんでした
黒い子猫は毎日ひとりぼっちでした
多分誰よりも寂しさを抱えていました
でもそれでよかったんです
家にいる時間の方が
学校にいる時間より長かったから
黒い立派なお母さん猫に
じっと見られる時間の方が長かったから
その時間が本当に大事だったから
月日を重ねて黒い子猫も
立派な黒い猫になりました
まわりはみんな敵だらけ
私はひとりぼっちでいい
そんな信条を掲げていました
おかしな信条でした
でも黒い立派なお母さん猫は
なんだか私とこの黒い子猫は
違うものだわとある日気づきました
そしてぽいっと放り出したのです
黒い子猫は一生懸命
お母さん黒猫の教えを守ってきたのに
思い当たる節があるとすると
あれでしょうか
いつもいつもどこにいても
ひとりぼっちでそれはそれは寂しくて
一度だけ友達が欲しいと
お母さん黒猫に言ってしまったこと
そうきっとそれが許されなかったのでしょう
ぽいっと放り出された
体だけ大きくなった
黒い子猫は最初はとても困りました
唯一信じるものがなくなってしまったからです
色んなものに縋り付いてみました
随分おかしなものに縋り付いていたこともあります
何しろお母さん黒猫以外に
本音で話すことなどなかったので
ただ運が少しだけよかったのでしょう
とても親身に話を聞いてくれる
人達に恵まれ10年ほど経つうちに
黒猫の周りには黒猫の名前を
親しく呼んでくれる人達ができました
黒猫はもう笑った方がいいなんて
言われません
自然と笑顔だからです
気がつくとあんなに綺麗な
真っ黒だった黒い体が
最近は白い色が混じってきて
優しい灰色なのです
もしかしたらこれから
本当は白猫だった私になるのかも
しれません