壊れかけのUFO 理蝶
壊れかけのUFOが
ふらふら夕暮れを飛んでゆく
どこかが壊れどこかが庇い
庇った所が壊れ他の所でまた庇う
あちこちを軋ませながら
えっちらおっちら飛んでゆく
20年程前
裏山にUFOが墜落した
駆けつけた沢山の野次馬に見守られ
ひしゃげた円盤から出てきたのは
触手も翼も何もない
僕たち人間と瓜二つの
異星人の夫婦だった
彼らは
遠い星からやってきたこと
その星で内乱があり逃げ出してきたこと
その星にたった1人の息子を置いてきてしまったこと を
身振り手振りで必死に伝えていた
2人の異星人はガラスの涙を流していた
見た目は僕達と何も変わらないのに
そこだけが僕達と違っていた
彼らの境遇に同情する人も多く
彼らは温かく受け入れられ
郊外に住む場所を与えられた
当然マスコミや研究者の格好の標的となり
彼らは最初の異星人として
時代の寵児になった
彼らのUFOは徹底的に調べ尽くされた
調査の結果分かったのは
この乗り物は人間の頭脳では到底理解する事ができないということだけだった
UFOを直す事ができないと知った時
彼らは大粒のガラスの涙を流した
その様子はテレビで大々的に放送され
時代を象徴するシーンとして人々に記憶された
それから20年が経った
時代の寵児だった
遠い星からの来訪者は
遠い記憶として忘れ去られていた
彼らは何度もUFOを飛ばそうとした
飛ばそうとしては墜落しを繰り返した
最初のうちはニュースにもなったが
もう今となっては誰も気にかけるものはいなくなっていた
よくあるこの街の光景として
日常に溶け込んでいた
壊れかけのUFOが
ふらふら夕暮れを飛んでゆく
どこかが壊れどこかが庇い
庇った所が壊れ他の所でまた庇う
あちこちを軋ませながら
えっちらおっちら飛んでゆく
またいつものように
どこかの山に堕ちてしまうのだろう
きっとあの異星人ももう故郷には帰れないことは分かっているはずだ
あんなオンボロじゃ
星はおろか山一つだって越えられやしないし
あれから20年が経ったが
彼らを故郷まで送り届ける技術は生まれそうにない
それなのに彼らは来る日も来る日も
UFOを飛ばし続ける
もうすぐ日が暮れて夜になる
今日は雲一つないから
星空がよく見えるだろう
墜落して煙を上げる壊れかけのUFOの側で
2人の異星人はどんな顔をして星空を眺めるのだろう
生きているのかも分からないたった1人の息子を思って
大粒のガラスの涙を流しているのだろうか
それとも涙はもう枯れてしまって
ただ深くため息をつくだけだろうか
夕焼けの中飛んでいたUFOは
ゆらゆらと高度を下げ
裏山に墜落した
裏山から立ち上る煙が
夜の気配のし始めた空に
高くたなびいていた