孤高の轍 荒木章太郎
父よただいま
貴方が死んで
ますます僕は
貴方に似てくる
困ったものだ
いのちの繋がり
しみじみ感じる
炭化するまで見送ったのち
見知らぬ者の蝋燭と線香の煙と
交ざりあう僧侶は誰に祈っているのか
区別もつかずいつの間にか
僕は父に取って代わった
化石化された遺伝子
紐解いている間に
母はまだ遥か前を歩いていた
僕らは祖父なる帝国の反乱軍
母や妹は祖母の呪いに縛られていた
父を建てて陰にまわるよう躾けられていた
役割の歯車が"とおりゃんせ"を奏でる
やに臭い季節は過ぎた
信号が青に変わると
超高齢の母が横断歩道を駆け抜ける
乳がんを患い乳房を切り取り
胃癌を患い胃袋を切り取り
一度でも人にもたれかかると
生きていけなくなると
孤独の道を駆け抜けていた
全ての人工物から距離を置き
野生の如くと
雑草の如くと
想いとは裏腹に遠回りをしていた
母を旧態依然から解放するため
僕は市役所に連れて行こうと思った
父と同じ轍で道を壊さぬよう
気をつけながら
後ろから母の手を取ろうとしたが
やめることにした